大石浩之の氏神ノート氏子奉賛金修繕磐田市統計
神社の修繕費 労務単価25,834円と奉賛金の1戸あたり
公開 2026-08-23/文:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)
社殿の修繕で奉賛金をお願いされたのですが、この金額はどこから出てきたんでしょうか
工事費を氏子戸数で割った数字です。分子と分母を分けて見てください。国土交通省の公共工事設計労務単価は令和8年3月適用分で全国全職種25,834円、前年度比4.5%。静岡県の大工は33,600円ですが、これに含まれない必要経費を加えた参考値は49,600円です。まず趣意書に総額・氏子戸数・工期・内訳があるか確かめてください。
公共工事設計労務単価が初めて25,000円を超えた ── 25,834円・前年度比4.5%
国土交通省は2026年(令和8年)2月17日、「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」を公表した。全国全職種の加重平均値は25,834円となり、初めて25,000円を超えた。伸び率は全国全職種の単純平均で前年度比4.5%。平成25年度の改定から14年連続の引き上げである。主要12職種に限った加重平均値は24,095円、伸び率は4.2%だった。
この単価は、公共工事の工事費を積算するための「労働者1人・所定労働時間内8時間あたり」の金額で、47都道府県・51職種ごとに設定されている。神社の社殿修繕は公共工事ではないから、この表の金額がそのまま見積書に載るわけではない。ただ、同じ地域の同じ職人に頼む以上、人件費の水準を測る物差しにはなる。奉賛金の趣意書を受け取った側が、金額の根拠を自分で当たれる数字は、実のところこれくらいしかない。
同じ資料の推移表には、もうひとつ氏子の側が見ておくべき数字がある。全国全職種平均値は平成24年(2012年)比で+94.1%、つまり14年で約1.94倍になっている。同じ内容の工事を14年先送りしていたら、人件費の部分はほぼ倍になった計算だ。
静岡県の大工は33,600円 ── 単価表に含まれていない経費がある
静岡県の大工の公共工事設計労務単価は、令和8年3月からの適用分で33,600円である。全国平均の大工30,331円を3,269円上回る。同じ都道府県別一覧で、静岡県のとび工は30,500円、普通作業員は26,600円、造園工は25,800円。境内の樹木を切るときの費用の出どころは「境内の危険木と台風 9月の上陸数1.0個と伐採費20万円」に別に書いた。中部圏は全国でも高いほうで、愛知県の大工は34,000円、岐阜県は33,800円だった。なお静岡県の屋根ふき工の欄は「-」で、単価そのものが載っていない。理由は資料に書かれていない。
| 職種 | 静岡県(令和8年3月〜) | 全国平均 | 全国の前年度比 |
|---|---|---|---|
| 大工 | 33,600円 | 30,331円 | +3.1% |
| とび工 | 30,500円 | 30,780円 | +4.0% |
| 左官 | 32,100円 | 30,508円 | +4.1% |
| 普通作業員 | 26,600円 | 23,605円 | +3.0% |
意外なのはここからである。国土交通省は同じ資料で、この単価に含まれない経費をはっきり書いている。単価の中身は基本給相当額・基準内手当・臨時の給与・実物給与の4つで、法定福利費の事業主負担分、労務管理費、安全管理費、宿舎費などは入っていない。国土交通省が参考値として併記している必要経費込みの金額は、静岡県の大工で49,600円である。33,600円との差は16,000円、約1.48倍になる。
つまり「大工1人1日で3万3千円」という感覚で見積書を読むと、実際の請負金額から外れる。ここへさらに材料費、足場、設計監理、そして消費税10%が乗る。奉賛金の目標額が想像より大きく見えるとき、その差の多くはここにある。私は不動産の工事見積を読むときも、まず労務費の行を人日に割り戻してから他社と比べる。総額だけを並べても、何が高いのか分からないからだ。
前野の東八王子神社、189年で4回の葺替え ── 平均47年に1回
磐田市前野の東八王子神社には、屋根の葺き替えの年が記録として残っている。『静岡県磐田郡誌』(大正10年=1921)は古老の口碑として、承応2年(1653)に屋根の葺き替えがあり、以後、元禄12年(1699)・享保7年(1722)・寛政7年(1795)・天保13年(1842)に修繕葺替が行われたことを記す。
間隔を引き算してみる。1653年から1699年まで46年、1699年から1722年まで23年、1722年から1795年まで73年、1795年から1842年まで47年。189年で4回、平均すると47年に1回である。この後、安政元年(1854)11月4日の震災で社殿が倒壊し、安政3年(1856)に仮本社が建てられている。地震はこの周期の外から来る。
47年は、人の一生で1回か2回しか当たらない周期だ。総代を引き受けた代に当たれば、その代が全部かぶる。当たらなければ一度も経験しない。だから「前はいくらかかったのか」を知っている人が、氏子の中にほとんど残らない。金額の根拠を聞かれた総代が答えに詰まるのは、隠しているからではなく、比べる相手を持っていないからだと私は見ている。
同書は同じ社の氏子を1030戸、境内地を1033坪と記している。分母がはっきり書き残されている、数少ない例である。
奉賛金の1戸あたりを、分子と分母の両方から数える
奉賛金の1戸あたりは、工事費を氏子戸数で割った数字にすぎない。分子である工事費が上がり、分母である氏子戸数が減れば、1戸あたりは掛け算で効いてくる。この2つを分けて数えないと、前回よりなぜ高いのかが誰にも説明できない。私が数字を見るときにいつもやるのは、この割り戻しである。総額のままでは、自分の家計と比べられない。
ざっくりした試算を置く。拝殿の屋根の葺替えで、大工の延べ人工を150人日と仮定する。150人日は私が置いた仮定の数で、工事の内容と規模によって大きく変わる。静岡県の大工単価33,600円で計算すると504万円、必要経費込みの参考値49,600円で計算すると744万円。いずれも労務費だけの数字で、材料費・足場・設計監理・消費税は別に乗る。
| 氏子戸数 | 賃金相当で割った1戸あたり(504万円) | 必要経費込みで割った1戸あたり(744万円) |
|---|---|---|
| 1,030戸 | 約4,900円 | 約7,200円 |
| 300戸 | 16,800円 | 24,800円 |
| 60戸 | 84,000円 | 124,000円 |
工事の中身が同じでも、60戸と1,030戸では1戸あたりが17倍違う。磐田市は2026年7月31日現在で72,421世帯あり、当サイト登録の146社で単純に割ると1社あたり約496世帯になるが、これは地区の全世帯であって氏子戸数ではない。自分の社の分母の数え方は「磐田市72,421世帯 祭り当番が回る周期を数える」に式を書いた。
分子の側も毎年動く。前年度比4.5%は、労務費500万円の工事なら1年で22万5千円の増加にあたる。氏子300戸なら1戸あたり750円だ。言い切っておく。社殿の修繕は、先送りした年数の分だけ確実に高くなる。14年連続の上昇と平成24年比+94.1%という実績が、それを示している。決めるべきは「やるかやらないか」ではなく、どの部位から順に手を付けるかである。
奉賛金に寄附金控除は付かない
国税庁のタックスアンサーNo.1150(令和7年4月1日現在法令等)は、菩提寺の改築工事への寄附について「寄附先である菩提寺が公益法人であり、その改築工事のための寄附が財務大臣から特定寄附金に該当するものとして指定を受けたものである場合には寄附金控除の対象になりますが、それ以外の場合は寄附金控除の対象となりません」と答えている。根拠は所得税法78条と所得税法施行令216条で、寺院だけの規定ではない。神社への奉賛金も同じ枠組みの中にある。
財務大臣の指定は工事ごとに受けるものだが、磐田市内の社の修繕でその指定を受けた例を、私は確認できていない。ここは未確認のまま残す。家計に組むときは控除が付かない前提で置いたほうが崩れにくい、というのが私の考えである。個別の申告で使えるかどうかは、税務署か税理士に確認してほしい。
総代の側で1つ減らせること ── 修繕の履歴を1枚に残す
今の人数で回すために減らせるものを、1つだけ挙げる。修繕の履歴を1枚の紙に残すことである。いつ・どこを・いくらで・どの業者が直したか。この4項目でいい。
当サイトは磐田市内146社の由緒を収録しているが、社殿の造営・再建・修繕の年が由緒に書かれているのは15社にとどまる。残り131社は、いつ屋根に手が入ったかが記録として残っていない。創建の年と旧社格は残るのに、修繕の履歴は残らない。前野の東八王子神社の葺替えの年が分かるのも、大正10年の郡誌が古老の口碑を書き留めたからであって、社の帳面が続いたからではない。
履歴が無いと、総代は毎回ゼロから調べ直すことになる。業者を探し、前回の仕様を推測し、相見積もりを比べる基準まで自分で作る。これは総代の時間で払われている負担で、当番の設営や草刈りと違って外からは見えない。紙1枚あれば、次の代はこの調べ直しをしなくて済む。境内の維持に誰がどれだけ体を使ってきたかは「境内の清掃と奉仕 ── 誰が社を保ってきたのか」に整理してある。
修繕履歴と同じく、毎月の電気使用量と電球交換の記録も次の担当へ渡したい。常夜灯・祭礼照明をLEDへ替える判断は「神社の電気代とLEDを2026年9月の支援額から比べる記事」で、使用量と交換作業に分けて整理した。
ただ、私は1戸あたりで割ること自体に、まだためらいがある。頭割りは公平に見えるが、住み続けて当番も出している家と、市外に住む相続人が名義だけ持っている家とでは、同じ2万4千円の意味がまるで違う。空き家になった家の側の事情は「空き家の氏子費 静岡県の空き家率16.7%と当番の分母」に別に書いた。割り方をどうするかは氏子が決める事柄で、私が外から決める話ではない。
今日できる確認を1つ書く。奉賛趣意書が回ってきたら、総額・氏子戸数・工期・内訳(労務費/材料費/諸経費)の4つが書かれているかを見る。書かれていなければ、総代に聞けばいい。伝統だから続けるべきだとも、もうやめるべきだとも、私は言わない。書いてあるのは金額の読み方だけである。包み方や表書きで迷ったときは「のし袋と初穂料の表書き ── 慶事と弔事の書き分け」を見てほしい。
よくある確認
神社の修繕の奉賛金は、金額の根拠をどこで確かめられますか。
国土交通省の公共工事設計労務単価が物差しになります。令和8年3月適用分で静岡県の大工は33,600円、全国全職種の加重平均は25,834円です。神社の工事は公共工事ではないため同額にはなりませんが、趣意書の労務費を延べ人日で割り戻せば、水準から離れているかどうかは判断できます。
神社への奉賛金は寄附金控除の対象になりますか。
原則として対象外です。国税庁のタックスアンサーNo.1150は、寺院の改築工事への寄附について、財務大臣から特定寄附金に該当する指定を受けたものを除き寄附金控除の対象とならないとしています。根拠は所得税法78条で、神社も同じ枠組みです。個別の申告可否は税務署か税理士に確認してください。
社殿の屋根は何年に一度直すものですか。
一律には決まりませんが、記録の残る例はあります。『静岡県磐田郡誌』(大正10年)によると磐田市前野の東八王子神社は、承応2年から天保13年までの189年間に4回の修繕葺替を行っています。平均すると47年に1回です。屋根材や被災の有無で変わるため、自分の社の履歴を確認してください。
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- 境内の清掃と奉仕 ── 誰が社を保ってきたのか
- のし袋と初穂料の表書き ── 慶事と弔事の書き分け
出典・確認先
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和8年2月17日)(2026年8月確認)
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価」(都道府県別・職種別一覧、参考公表:建設労働者の雇用に伴い必要な経費の表示)(2026年8月確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.1150「一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」Q&A(令和7年4月1日現在法令等)(2026年8月確認)
- 『静岡県磐田郡誌』(大正10年=1921)東八王子神社の項(当サイトによる転記)(2026年8月確認)
- 磐田市「人口・世帯数」(令和8年7月31日現在)(2026年8月確認)
制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と、氏子総代や神社庁の窓口にご確認ください。本記事は一般的な情報であり、特定の神社・家・土地についての判断ではありません。