参拝の作法L12026-07-30
のし袋と初穂料の表書き ── 慶事と弔事の書き分け
御祈祷や神事の際に納める初穂料・玉串料について、のし袋の選び方と表書きの書き分けを整理し、市内で納める機会がどれだけあるかを説明します。
初穂料という言葉
神社で御祈祷や神事を依頼する際に納める金銭を、初穂料といいます。
初穂とは、その年最初に収穫した稲のことです。収穫物を神に供えるという習俗が、貨幣経済の広まりとともに金銭に置き換わり、その名だけが残りました。
同じものを「玉串料」と呼ぶこともあります。玉串は榊の枝に紙垂を付けたもので、神事の際に参列者が神前に捧げます。その玉串の代わりに納める金銭という意味です。
「代金」ではなく「料」と呼ぶのは、御祈祷が商品ではないという考え方によります。金額の目安が示されていても、売買ではないという建前です。
この建前を形式的なものと見ることもできますが、御祈祷を受けるという行為の性格を示してもいます。買うのではなく、供えて依頼する。言葉の選び方に、その違いが表れています。
賽銭とは性格が異なります。賽銭は誰でも、いつでも供えられるもの。初穂料は、特定の祭祀を依頼するときに納めるものです。
のし袋と表書き
のし袋の選び方と表書きは、慶事か弔事かで分かれます。
慶事。厄祓い、初宮参り、七五三、地鎮祭、上棟祭、車のお祓いなど。紅白の蝶結び(花結び)の水引を用います。表書きの上段に「初穂料」または「玉串料」、下段に御祈祷を受ける人の氏名を書きます。
蝶結びは何度でも結び直せる形で、繰り返してよい慶事に用います。結婚に関わる場合は結び切りを用いるという慣行がありますが、神前式の初穂料についてはどちらの案内も見かけます。社に尋ねるのが確実です。
弔事。神葬祭、霊祭など。黒白または双銀の結び切りを用います。表書きは「玉串料」「御榊料」「御神前」。「御霊前」も用いられます。「御仏前」は仏式の語なので使いません。「初穂料」も弔事には用いません。初穂は収穫の喜びに関わる言葉であるためです。
御車代。神職に出張してもらう場合、初穂料とは別に用意することがあります。白封筒に「御車代」と書きます。地鎮祭や上棟祭のように現地で行う神事で必要になります。
下段の氏名は、御祈祷を受ける本人の名を書きます。代理で受ける場合も本人の名です。地鎮祭であれば施主の名になります。
金額と扱い
金額について、いくつか確かめておきます。
社によって目安が示されていることが多くあります。五千円から、あるいは一万円から、といった形です。授与品の内容によって金額が分かれている場合もあります。予約の際に尋ねて差し支えありません。
「お気持ちで」と案内されることもあります。この場合、相場を尋ねてもよいでしょう。答えられないと言われたら、五千円を目安にする方が多いようです。
新札を用意する必要があるかについては、決まりはありません。慶事にあたる場合は新札を用いる人が多いようですが、そうでなければならないわけではありません。弔事では、逆に新札を避けるという慣行もあります。
のし袋のまま受付で渡します。中袋がある場合は金額と住所・氏名を書きます。中袋がなければ、袋の裏に金額を書き添えることもあります。
御朱印の初穂料は、のし袋を用いません。その場で現金を渡します。三百円から五百円程度が目安とされ、釣り銭が不要になるよう小銭を用意しておくと親切です。
磐田の実際 ── 納める機会が限られる
ここからは磐田の事情です。
当サイトが把握している市内145社のうち、神職が常駐していることを確認できたのは数社にすぎません。静岡県神社庁の掲載で各種御祈祷の案内があるのは、矢奈比賣神社(見付)、府八幡宮(中泉)、貴船神社(掛塚)の3社にとどまります。
つまり、市内で初穂料を納める機会は、この3社に依頼するときと、神職に出張してもらって地鎮祭などを行うときに限られます。残る142社では、賽銭を供えることが唯一の関わり方になります。
『静岡県磐田郡誌』(大正10年)を見ても、同書が「代表者」欄に神職名を記す社は市域146件のうち7件にすぎず、うち三社――諏訪神社(大当所)、日吉山王神社(上野部)、秋葉神社(新開)――は同じ宮司の兼務です。百年前から、神職の常駐する社は限られていました。
氏神が無人の社である場合、その社では御祈祷が行われていません。地鎮祭を氏神の神職に依頼したい場合は、その社を兼務している神職を探すことになります。社頭に連絡先が掲示されていることがあります。掲示がなければ、氏子総代や自治会に尋ねるのが確実です。
実際には、施工業者が付き合いのある神職を手配することが多いでしょう。その場合、初穂料の額も業者から示されることがあります。
祭りの費用と初穂料
初穂料に近いものとして、祭りの費用の分担があります。
『静岡県磐田郡誌』(大正10年)は各社の氏子戸数を記録しています。八雲神社(川袋)の1215戸、田中神社(中泉)の1100戸、八王子神社(前野)の1030戸という大きな社がある一方、浅間神社(小島)は8戸、神明神社(東平松)は8戸、金山神社は5戸という記載もあります。
この戸数が、そのまま祭りの費用を負担する単位でした。氏子が数戸の社では、一戸あたりの負担は小さくありません。祭りを続けるということは、その負担を毎年引き受けるということです。
当サイトが旧社格を確認できたのは145社のうち18社で、県社が鎌田神明宮と淡海國玉神社の2社、郷社が9社、村社が7社です。旧社格は明治期に置かれ戦後に廃止された行政上の区分であり、現在の格式を示すものではありませんが、その社がかつてどれだけの範囲から支えられていたかを映しています。
氏子として納める費用は、初穂料とは性格が違います。御祈祷を依頼する謝礼ではなく、社を維持する分担金です。表書きは地域の取り決めに従います。
新しくその土地に住み始めた場合、こうした分担について自治会から説明を受けることがあります。地域によって扱いが違うため、尋ねてみるのがよいでしょう。
玉串奉奠と初穂料
初穂料を納めて御祈祷を受けると、途中で玉串を捧げる場面があります。
神職から榊の枝を受け取り、案の前で時計回りに回して根元を神前に向け、両手で置きます。そのあと二拝二拍手一拝の拝礼をします。神葬祭など弔いの場では、音を立てない忍手で行います。
「玉串料」という言葉が使われるのは、この玉串奉奠に由来します。玉串を自分で用意する代わりに、その費用を納めるという考え方です。
初穂料と玉串料は、慶事ではほぼ同義に使われます。弔事では「玉串料」を用い、「初穂料」は用いません。この使い分けだけ覚えておけば、迷うことは少なくなります。
玉串奉奠の手順は、神職が案内してくれることがほとんどです。複数人で受ける場合は、前の人の動作を見ておけば足ります。
市内で玉串奉奠を経験する機会は、社務所のある3社で御祈祷を受けるとき、地鎮祭や上棟祭のとき、神葬祭に参列するときに限られます。多くの人にとって、人生に数えるほどの回数でしょう。
賽銭との違い
初穂料と賽銭の違いを、もう一度整理しておきます。
賽銭は、誰でも、いつでも供えられます。金額に決まりはありません。五円が「ご縁」に通じる、十円は「遠縁」になるといった語呂合わせは俗説であり、神社本庁をはじめとする公的な案内で金額を定めているものはありません。
初穂料は、特定の祭祀を依頼するときに納めます。社によって目安が示されていることが多く、のし袋に入れて受付で渡します。対価ではないという建前をとりますが、実際には額が示される点で賽銭とは性格が違います。
無人の社では、賽銭箱が常設されていないことがあります。防犯上の理由から、祭りの日以外は箱を置かないという判断です。拝殿の前に何もない社を訪ねたときは、賽銭を入れずに参拝すれば差し支えありません。
賽銭を入れる場所がない場合、社殿の縁や賽銭箱の上に硬貨を置くのは避けたほうがよいでしょう。風で飛んだり雨に濡れたりして、かえって片付ける人の手間になります。
市内で初穂料を納める機会は限られますが、賽銭を供える機会は145社すべてにあります。そちらのほうが、この土地の神社との関わりとしてははるかに一般的な形です。
形式に迷ったら
のし袋の形式について迷ったら、次の順で考えれば足ります。
慶事か弔事か。慶事なら紅白の蝶結び、弔事なら黒白または双銀の結び切り。
慶事の表書きは「初穂料」。弔事は「玉串料」。
下段は御祈祷を受ける本人の氏名。
神職に出張してもらうなら「御車代」を別に用意。
これだけです。細部について社ごとの慣行がある場合は、予約の際に尋ねれば教えてもらえます。尋ねることは失礼ではありません。
そして、間違えたとしても咎められることはありません。神事は形式を競う場ではないからです。表書きが違っていたことに後から気づいて気に病む必要もないでしょう。
市内145社の所在地と、御祈祷を受けられる社については、当サイトの各社ページで確かめられます。祭神が確認できたのは109社、例祭日は102社、大正期の由緒は112社。依頼する前に、その社がどういう社かを知っておくと、納める初穂料の意味も少し変わってきます。
受付での流れ
社務所での受付は、次のように進みます。予約した時刻より少し早めに行き、受付用紙に住所・氏名・生年月日と願意を記入します。祝詞のなかで読み上げられるためです。
のし袋を渡し、控室で待ちます。時刻になると社殿に案内されます。ほかの依頼者と一緒に受けることもあり、その場合は祝詞のなかで複数の名前が読み上げられます。
終わりにお神札や御守が授与されます。持ち帰って神棚に納め、神棚がなければ目線より高い清浄な場所に立てて祀ります。一年を目安に社へ納めるのが通例です。
のし袋の形式は、覚えれば一生使えます。慶事は紅白の蝶結びに「初穂料」、弔事は黒白の結び切りに「玉串料」。この二つを押さえておけば、神社に関わる場面で困ることはほとんどないでしょう。
出典・参考
- 神社本庁ほか公開資料
- 静岡県神社庁 神社紹介ページ
- 『静岡県磐田郡誌』(磐田郡教育会編・1921/国立国会図書館デジタルコレクション pid 965680)