大石浩之の氏神ノート鳥居境内維持管理

磐田の鳥居の点検 建築基準法の対象外と神戸市の窓口

公開 2026-08-31/文:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)

記事内容をもとに生成したイメージ:磐田の鳥居の点検 建築基準法の対象外と神戸市の窓口
記事内容をもとに生成したイメージです。実在の場所・人物を撮影したものではありません。

境内の石鳥居にひびが入っているのですが、どこに相談すればいいのでしょうか

石造の鳥居は建築基準法施行令138条1項の工作物5種に入っていないため、確認申請も定期報告も義務づけられていません。磐田市の指定文化財にも鳥居は一基もなく、文化財としての保護もかかりません。残るのは民法717条の工作物責任で、負うのは所有者である宗教法人、実際に見に行くのは氏子と総代です。

石造の鳥居は、建築基準法施行令138条の工作物に入っていない

建築基準法が定期的な点検や確認申請を求める「工作物」は、建築基準法施行令138条1項に5種類だけ挙げられている。煙突、柱、広告塔、高架水槽、擁壁の5つで、それぞれに高さの条件が付く。この5号のどこにも鳥居はない(e-Gov法令検索・2026年8月31日確認)。

指定されている工作物高さの条件
煙突(支枠・支線を含む。ストーブの煙突を除く)6メートル超
鉄筋コンクリート造の柱、鉄柱、木柱その他これらに類するもの(旗ざおを除く)15メートル超
広告塔、広告板、装飾塔、記念塔その他これらに類するもの4メートル超
高架水槽、サイロ、物見塔その他これらに類するもの8メートル超
擁壁2メートル超

二号の「柱その他これらに類するもの」が近そうに見えるが、条文が挙げる材種は鉄筋コンクリート造・鉄・木であって、石は入っていない。しかも条件は15メートル超である。石造の鳥居でその高さのものは、まず無い。

鳥居はそもそも建築基準法の「建築物」でもない。同法2条1号は建築物を「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」と定義している。鳥居は2本の柱に笠木・島木・貫を渡した形で、屋根も壁も持たない。笠木は屋根とは評価されない。だから6条の確認申請も、12条の定期報告も、鳥居には及ばない。鳥居のくぐり方と一礼は作法として整理されているのに、その鳥居の安全については、法律が誰にも何も命じていない。

神戸市は「鳥居等の安全性についての相談窓口」を公開している

神戸市は、鳥居等の安全性についての相談窓口を公式サイトで案内している。ページの最終更新日は2024年10月1日である(2026年8月31日確認)。開設日そのものはページに書かれていないため、私が確認できたのは「2024年10月1日の時点で公開されていた」ところまでである。

神社や寺院にある石造の鳥居、灯籠等(鳥居等)は、原則、建築基準法等の規制の対象外ですが、能登半島地震など昨今の地震で倒壊や損傷などの大きな被害を受けています。

背景にある被害の規模も見ておく。石川県神社庁の調べでは、同庁に加盟する1,867社のうち、2024年2月末の時点で少なくとも約340社の拝殿や灯籠などに被害が確認されている(北陸中日新聞2024年3月4日)。ただし鳥居に限った倒壊基数を集計した公的な資料は、私が探した範囲では見つからなかった。能登町宇出津の八坂神社で高さ約5メートルの鳥居が倒れた、といった個別の記録が残っているだけである。

行政の側が「原則、建築基準法等の規制の対象外」と自分で書いている点が、この窓口の性格を示している。規制で縛れないから、相談で受けるという形である。所管は神戸市建築住宅局建築指導部建築安全課で、実際に相談を受けるのは一般財団法人神戸シティ・プロパティ・リサーチ。神戸市および株式会社こうべ未来都市機構と2021年11月12日に結んだ「戦略的まちづくり及び歴史的建築物等の保全に関する基本協定」に基づく体制だと、同じページに書かれている。

項目神戸市のページに書かれている内容
窓口名鳥居等の安全性についての相談窓口
対象神戸市内の神社・寺院にある石造の鳥居、灯籠等の所有者
想定する相談既存の鳥居等の耐震性への不安、および新たに設置する場合
受付一般財団法人神戸シティ・プロパティ・リサーチ(電話 078-381-7690)
受付時間9時00分〜16時30分(土日祝・年末年始を除く)
費用「費用については上記相談窓口でお尋ねください」と記載。無料とは書かれていない

良い点を3つ数える。第一に、対象を「石造の鳥居、灯籠等」と物で区切ったこと。神社か寺院かを問わず、灯籠まで含めている。第二に、新設の相談も受けると明示したこと。倒れてからではなく、建てる前に相談できる。第三に、窓口を建築の実務が分かる財団に置いたこと。宗教法人の側が、どこの誰に電話すればいいかを迷わずに済む。

その上で、注文が2つある。1つは費用の扱いである。所有者が最初に知りたいのは「いくらかかるのか」で、そこが窓口に聞くまで分からないと、電話をかける前に諦める社が出る。目安だけでも先に書いてあれば、当番の会議に持っていける。もう1つは範囲である。対象は神戸市内に限られる。同じ心配を抱えた社は全国にあるが、市の窓口である以上そこは動かせない。だから他の市がどうするか、という話になる。

磐田では、鳥居はどの窓口の所管でもない

磐田市は限定特定行政庁である。建築確認を担当するのは建設部建築住宅課建築グループ(磐田市国府台3-1 西庁舎2階)で、市が扱うのは建築基準法6条1項2号の一部と3号に当たる建築物、およびそれに係る高さ10メートル以下の広告塔・煙突と高さ3メートル以下の擁壁に限られる。それ以外の事務は静岡県が行い、磐田市を含む中東遠の区域は袋井土木事務所の管轄である(2026年8月31日確認)。

ただしこの線引きは、施行令138条の工作物に当たる場合の話である。鳥居はその一覧に無いのだから、市の範囲にも県の範囲にも入らない。どちらに電話しても「所管ではない」と返ってくる。窓口が分からないのではなく、窓口が制度として存在しない。

文化財の側も同じだった。磐田市の国指定・県指定・市指定の文化財一覧を通して見ても、鳥居は一基も指定されていない(2026年8月31日確認)。指定されている神社の建造物は、府八幡宮本殿及び拝殿附幣殿、府八幡宮中門、淡海国玉神社幣殿・拝殿、浅間神社本殿、賀茂神社本殿である。社殿は入っていて、鳥居は入っていない。参道の入口に立ち、いちばん人の頭の上にあるものが、保護の枠からも規制の枠からも外れている。

残るのは民法717条の工作物責任だけである。土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害を生じたとき、まず占有者が、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が賠償の責任を負う。所有者の責任に免責の規定は無い。これは境内の危険木と台風の記事で書いた構図とまったく同じで、木でも鳥居でも、最後は所有者である宗教法人に返ってくる。そして宗教法人の実務を担っているのは、氏子と総代である。

氏子と総代がすでに払っている負担を、内訳で数える

静岡県神社庁の「静岡県の神社」で磐田市を検索すると146社が並ぶ(当方で全3ページを数えた実数・2026年8月31日確認)。この146社の鳥居を、誰かが見に行かなければならない。何を払うことになるのかを、時間・現金・体力に分けて数える。

時間。鳥居1基をきちんと見るなら、柱の根元を一周し、貫と柱の接合部を確かめ、笠木と島木を見上げ、写真を撮って記録に残すところまでで、2人でおよそ半日かかる。参道の奥にもう1基あれば倍になる。当番の役はふつう1年で交代するので、見た人と次に見る人が別人になる。だから記録を残さないと、去年と比べることができない。この「比べられない」が、点検を実質的に無意味にする。

現金。国土交通省の令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価は、全職種の全国単純平均で1日25,834円である(前年度比4.5%)。石工の単価は今回確認していないので、ここでは職人ひとり1日の目安として全職種平均を使う。146社を1社あたり1人日で見てもらうと、146×25,834円で約377万円になる。磐田市の神社の鳥居を1年に1回、業者の目で見るだけで、市域全体でこの規模の金額が動く計算になる。今それを払っていないのは、氏子が自分の足と目で代わりにやっているからである。377万円は、帳簿に載らない現物の出資だと私は見ている。

体力。笠木は地上4メートルから5メートルのところにある。下から見上げるだけでは、上面の欠けもずれも見えない。脚立を立てるか、双眼鏡を使うか、望遠で撮るかになる。玉砂利の上に脚立を立てる作業を、70代の総代に頼むのが妥当かどうか。境内の清掃と奉仕と同じ列に並べていい仕事ではない。

減らすなら「全部を毎年」をやめる。鳥居は3点だけ、年に1回

今の人数で回すために減らせることを1つ挙げる。境内の構造物を全部まとめて毎年見る、という建て付けをやめることである。灯籠も玉垣も手水舎も社殿も、と並べた瞬間に半日では終わらなくなり、結局どれも見ないまま年が過ぎる。鳥居だけを切り出して、見る場所を3点に固定する。

  1. 柱の根元。亀腹のまわりにひびが入っていないか、押して動かないか。
  2. 貫と柱の接合部。すき間が開いていないか、詰めてある材が痩せて落ちていないか。
  3. 笠木と島木。角が欠けていないか、載っている位置が横にずれていないか。

そのうえで、同じ立ち位置から毎年1枚だけ写真を撮り、日付を付けて残す。3点を見るだけなら2人で30分、写真は1枚。当番が代わっても引き継げる。判断はできなくていい。去年の写真と並べて「変わった」と言えれば、そこで初めて石屋を呼ぶ理由が立つ。何もない年に業者を呼ぶ費用を払わずに済む、というのが実利である。

ここは体験ストックに該当する場面がないので、私の考えとして書く。私は義務化してほしいとまでは言えない。点検が義務になれば、様式と報告と費用が氏子に降りてくる。当番が回らなくなっている社に、年1回の書類を1枚増やすことの重さを、私は軽く見られない。神戸市が規制ではなく相談窓口という形を選んだ理由も、たぶんそこにある。ただ、義務が無いことと、見なくていいことは違う。鳥居の安全を今支えているのは、法律ではなく氏子の目である。

今日できる確認を1つ。鳥居の柱に、建立年や寄進者の銘が刻まれている社がある。まずそれを控えておく。矢奈比賣神社(見付)のように参道に複数の鳥居が並ぶ社なら、どれがいつのものかを分けて記録する。建立年が分かれば、石屋に相談するときも、氏子総会で修繕を諮るときも、話の入口が「何年もっているものか」から始められる。神社が磐田市の指定避難所に1か所も入っていないことと合わせて考えると、境内の安全は、外から誰かが見に来てくれる前提では組めない。

結論を出すのは今日でなくていい。ただ、建立年と、根元の写真1枚だけは、当番が代わる前に残しておいてほしい。半年後にどの選択をするにしても、それが最初の材料になる。

よくある確認

鳥居が倒れて通行人にけがをさせたら、誰が責任を負いますか。

民法717条1項は、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害を生じたとき、まず占有者が、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が賠償の責任を負うと定めています。鳥居の所有者は宗教法人である神社です。所有者の責任には免責の規定がなく、注意していたことを理由に免れることはできません。

磐田市の建築住宅課に、境内の鳥居を見てもらえますか。

鳥居は所管外です。磐田市は限定特定行政庁で、建設部建築住宅課建築グループが扱うのは建築基準法6条1項2号の一部と3号の建築物、および高さ10メートル以下の広告塔・煙突と高さ3メートル以下の擁壁です。鳥居は施行令138条の工作物に指定されていないため、市にも静岡県にも点検の所管がありません(2026年8月確認)。

神戸市の相談窓口は、磐田の神社でも使えますか。

使えません。神戸市の「鳥居等の安全性についての相談窓口」の対象は、神戸市内の神社・寺院にある石造の鳥居、灯籠等の所有者です。受付は一般財団法人神戸シティ・プロパティ・リサーチ、電話は078-381-7690、受付時間は9時00分から16時30分です。費用は窓口に尋ねる形になっています(2026年8月確認)。

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出典・確認先

制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と、氏子総代や神社庁の窓口にご確認ください。本記事は一般的な情報であり、特定の神社・家・土地についての判断ではありません。

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この記事を書いた人

大石浩之(磐田市/不動産業)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士

磐田市で実家じまい・相続・空き家の相談を受けています。氏神や祭りの担い手の話は、家や土地をどうするかの相談と必ず同じ場に出てきます。その現場で見たこと・聞いたことを、判断できるところとできないところを分けて書いています。

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