大石浩之の氏神ノート宗教法人境内地氏子磐田市地価
宗教法人の土地売却は公告1か月 神社の境内地を動かす手順
公開 2026-08-25/文:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)
総代をしている神社で、使っていない旧社務所の跡地を売ってはどうかと言われました。何から手をつければいいですか
宗教法人法第23条は、不動産の処分に「その行為の少くとも一月前」の公告を義務づけています。所轄庁の許可は要りませんが、公告を欠いた処分は第24条で無効です。ただし善意の相手方には無効を対抗できません。文化庁の運営ガイドブックの例では、掲示10日と据置1か月で行為開始まで41日。公告には処分金額と相手方も書きます。
公告は「行為の少くとも一月前」── 宗教法人法第23条が売却に置いた期日
宗教法人が土地を売るときは、その行為の少なくとも1か月前に公告しなければならない。根拠は宗教法人法(昭和26年法律第126号)第23条である。条文は「その行為の少くとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない」と書く。第1号に挙がるのが「不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること」で、売却も交換も、長期の賃貸借も、地上権の設定もここに入る。
意外なのは、県知事の許可が要らないほうである。文化庁「宗教法人のための運営ガイドブック」(2026年8月確認)は、宗教法人法の特徴として「宗教法人には非違行為はないという考え方から、財産の処分等について、所轄庁(都道府県知事又は文部科学大臣、以下同様)の許可等は必要ありません」と記す。設立・規則の変更・合併・解散には所轄庁の認証が要る(同法第12条・第26条)。土地を売ることには要らない。外からの歯止めの代わりに置かれているのが、この1か月の公告である。
飛ばすとどうなるか。第24条は「前条の規定に違反してした行為は、無効とする」と定め、但書で「善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない」と続ける。事情を知らずに買った相手は守られ、手順を飛ばした神社の側だけが後始末を負う向きになっている。売却の日程表は、契約日ではなく公告の日から逆算して組む。
掲示10日と据置1か月で41日 ── 公告には処分金額と相手方も書く
宗教法人法第23条の「1か月前」の4文字だけを見ると、日数が足りなくなる。文化庁の運営ガイドブックは、公告の日程の例として次の並びを示している。4月1日を公告開始日とすると、起算日は翌4月2日。掲示期間を10日間とすれば4月11日が公告期間満了日で、4月12日から据置期間1か月に入り、5月11日に終わる。行為開始日は5月12日。4月1日から数えて41日である。同ガイドブックは「公告の初日及び最終日は一日中でない限り期間に算入されないので、日数不足に注意」とも添えている。
公告の前にも順序がある。ガイドブックが示す財産処分の流れは、規則に定める手続(責任役員会の議決・総代会の同意・包括宗教団体の承認)、公告、財産処分、財産台帳等の整理、処分した財産が基本財産の場合は基本財産総額の変更登記、所轄庁への届出、の順である。責任役員は3人以上(第18条)、規則に別段の定めがなければ事務は責任役員の定数の過半数で決する(第19条)。総代会の同意や包括団体の承認が要るかどうかは、その神社の規則に書いてある。一般論では決まらない。自分の社の規則を金庫から出してくるところが出発点になる。
土地を持つ器が宗教法人なのか、認可地縁団体なのか、個人名義のままなのかで、ここから先の手続きは丸ごと変わる。3つの器の違いは「認可地縁団体と宗教法人 磐田の氏子と土地の3つの形」に条文で並べた。
公告に何を書くかも決まっている。同ガイドブックは、不動産の処分について「処分する物件、価格、相手先、処分の目的、処分の方法、年月日等」を公告する必要があるとする。掲載された様式例は、1 処分する財産(物件・処分金額)、2 処分の目的、3 処分の相手方、4 処分の年月日、5 処分の方法の5項目で組まれている。様式例の記入は「宅地100㎡(現在空地)」「総額1,000万円」「処分の方法 売却」である。
いくらで、誰に売るのかが、氏子の前に貼り出される。公告の方法は同法第12条第2項が「新聞紙又は当該宗教法人の機関紙に掲載し、当該宗教法人の事務所の掲示場に掲示し、その他……周知させるに適当な方法」と定め、どれによるかは各法人の規則の登記事項になっている。据置期間について同ガイドブックは「意見の申し出等のため、1月の期間は据え置くことが必要です」と書き、反対意見が出れば責任役員会で再検討する流れを図で示す。値段を伏せたまま進む設計にはなっていない。
私はここが、この手続きで一番こたえる部分だと思っている。売買の実務では金額は最後まで当事者の間に置くのが普通で、私も普段はそう扱う。神社の土地だけは逆で、決まった金額を先に地域へ開き、総代が矢面に立つ。制度としては筋が通っているのに、引き受ける人の側に立つと重い。以上は私見で、条文が総代の負担まで書いているわけではない。
売るのと貸すのとでは、税の入口が別になる
売るか貸すかを相談されたとき、私がまず伝えるのは税の入口が別物だという点である。宗教法人は法人税法上の公益法人等にあたり、収益事業から生じた所得にだけ法人税がかかる。収益事業は同法施行令第5条第1項の34業種で、第2号に不動産販売業、第5号に不動産貸付業が入る。貸せば課税の側に回る。
売却は扱いが違う。法人税基本通達15−2−10は、公益法人等が収益事業に属する固定資産を処分した損益は原則として収益事業に係る損益になるとしつつ、「相当期間にわたり固定資産として保有していた土地(借地権を含む。)、建物又は構築物」の処分による損益は収益事業に係る損益に含めないことができる、と定める。長く持っていた土地を1回売るのと、毎月貸すのとでは、税務上の位置が違う。
消費税法別表第二第一号は「土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付け」を非課税とする。落とし穴は同法施行令第8条で、貸付期間1か月未満の場合と「駐車場その他の施設の利用に伴つて土地が使用される場合」は非課税から外れる。跡地を整地して月極駐車場にすると、そこは課税取引になりうる。
固定資産税も動く。地方税法第348条第2項第3号は「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」を非課税とする。効いているのは「専らその本来の用に供する」の一句で、使わなくなった跡地を第三者に貸せば、この条件から外れる。磐田市の税率は固定資産税1.4%、市街化区域内の都市計画税0.3%である(磐田市「固定資産税・都市計画税の概要」2025年12月12日更新)。跡地が現に「専らその本来の用」から外れているかは、市が現況を見て判断する。私には条文だけで線が引けない。
令和7年静岡県地価調査 ── 磐田市は全用途0.2%上昇、基準地25地点の中身
静岡県は2025年9月17日付の静岡県公報号外第74号で「令和7年静岡県地価調査結果」を公表した。県内610地点の平均変動率は住宅地▲0.1%、商業地0.7%、工業地0.8%、林地▲0.9%で、全用途は17年ぶりの上昇となった。住宅地は17年連続の下落である。価格の調査時点は毎年7月1日である。
磐田市の基準地は25地点ある。住宅地18地点が0.2%(前年0.2%)、工業地1地点が1.3%(前年1.4%)、全用途25地点で0.2%(前年0.0%)。全用途の上昇率は県内9位である。上げ幅が最も大きい地点は中泉589番6の商業地で1平方メートル108,000円、前年比2.86%。下げ幅が最も大きいのは見付字西坂2610番6の商業地で71,200円、前年比▲1.52%である。府八幡宮の住所は磐田市中泉112−1、磐田市が案内する磐田税務署の住所は磐田市中泉112−4で、同じ112番地のなかにある。
数字は自分の商売感覚に翻訳しておきたい。県が公表した基準地一覧(宅地)から磐田市の住宅地18地点を単純平均すると、1平方メートル46,712円になる。最高は国府台字桜新田27番16の88,600円、最低は福田字水神野5096番1の9,720円で、開きは9.1倍ある。旧社務所跡地を330平方メートル(約100坪)と置いて平均単価を掛けると約1,541万円になる。ただし基準地の価格はその1地点の価格であって、隣の土地の値段ではない。
総代がすでに出しているものを数えてから決める
売却の相談は、氏子と総代がすでに払っている負担の上に乗る。乗せる前に内訳を数える。
現金。宅地建物取引業者に媒介を頼んだ場合の報酬の上限は、昭和45年10月23日建設省告示第1552号(最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号)が定めている。400万円を超える部分は100分の3.3で、消費税等相当額を含む額である。売買代金1,541万円なら上限は約57万円。代金800万円以下の低廉な空家等については同告示第7で特例があり、30万円の1.1倍にあたる33万円が上限になる。ほかに宗教法人の登記事項証明書、代表役員の資格を示す書類、境界が入っていなければ測量費が乗る。その登記事項証明書に前の代表役員の名前が載ったままだと、契約の相手を確かめる段階で止まる。代表役員が交代したときの期限と過料は「宗教法人の代表役員変更登記 期限2週間と過料10万円」に整理した。
時間。責任役員会の招集と議決、規則が求めるなら総代会と包括団体、そこから公告41日。契約・決済・所有権移転登記が続く。公告の41日は交渉では縮まない。買主が現れてから逆算すると、間に合わない話になりやすい。
体力。調べている間も草は伸びる。境界の立会いは隣地の所有者と日程を合わせる必要があり、平日の日中に総代が出ることになる。時間と現金は氏子の戸数で割って薄められるが、体力は分担では薄まらない。神社の修繕費 労務単価25,834円と奉賛金の1戸あたりで使った静岡県の普通作業員の労務単価25,834円(2026年3月から適用)を物差しにしてみる。跡地を貸して固定資産税と都市計画税が新たに発生した場合の年約18万3千円は、草刈りを外注する約7人日分にあたる。氏子300戸の社なら1戸あたり年611円である。分母は330平方メートル・平均単価・評価額は地価の7割という3つの仮定で、ざっくりした概算である。
減らせるものを、総代の側から1つ挙げる。売るか貸すかを決める前に、規則の該当条文の写しを1枚作っておくことである。財産処分について規則の第何条に何が書いてあるか、総代会の同意が要るか、包括団体の承認が要るか、公告の方法は何と登記されているか。この4行を書き写した紙が1枚あれば、次に相談が来たとき、金庫を開けるところからやり直さずに済む。作るのに30分、更新は規則を変えるまで不要である。
今日できる確認は3つある。1つ目、その土地が財産目録に載っているか、基本財産かどうかを見る。基本財産なら処分後に総額の変更登記が要る。2つ目、登記簿の地目と現況を突き合わせる。地目が境内地でも現況が空地なら、非課税が続く前提は崩れている。3つ目、規則の公告の方法を確認する。掲示場が実在するか、機関紙が今も出ているかまで見る。
今日、売るか貸すかを決める必要はない。国に引き取ってもらう道は「境内地は国庫帰属できない 帰属3,008件と却下の壁」に書いたとおり境内地の入口で閉じているので、実際に選べるのは持ち続けるか、貸すか、売るかの3つになる。神社の土地がどう積み上がってきたかは基礎資料「朱印地と除地 ── 近世の神社の土地」に例がある。氏子の一人として、商売の目で見ると、規則の写し1枚と地目の突き合わせだけは、どの結論を選んでも必ず効く。
よくある確認
宗教法人が土地を売るとき、県の許可は要りますか。
宗教法人法は、財産の処分に所轄庁(都道府県知事または文部科学大臣)の許可や認証を求めていません。文化庁「宗教法人のための運営ガイドブック」も「財産の処分等について、所轄庁の許可等は必要ありません」と記しています。代わりに同法第23条が、行為の少なくとも1か月前の公告を義務づけています。規則が定める責任役員会の議決などの手続きは、公告より先に必要です。
公告をしないで売ってしまった場合はどうなりますか。
宗教法人法第24条は、境内建物・境内地である不動産などについて第23条に違反してした行為を無効と定めます。ただし但書で「善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない」としています。事情を知らずに買った相手には無効を主張できず、手順を飛ばした宗教法人の側が後始末を負う形になります。
使っていない空き地は、売るのと貸すのとで税の扱いが違いますか。
違います。貸付けは法人税法施行令第5条第1項第5号の不動産貸付業にあたり、収益事業として法人税の対象になります。相当期間保有した土地の売却は、法人税基本通達15−2−10により収益事業の損益に含めないことができます。地方税法第348条第2項第3号の境内地の非課税は「専らその本来の用に供する」場合が条件で、第三者に貸すと外れます。
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- 認可地縁団体と宗教法人 磐田の氏子と土地の3つの形
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出典・確認先
- 宗教法人法(昭和26年法律第126号)第3条・第12条・第19条・第23条・第24条(2026年8月確認)
- 文化庁「宗教法人のための運営ガイドブック」(財産処分に公告を忘れていませんか/公告の様式例・日程例)(2026年8月確認)
- 静岡県「令和7年静岡県地価調査結果」(令和7年9月17日静岡県公報号外第74号)(2026年8月確認)
- 同上「R7地価調査 資料1(平均価格・平均変動率順位等)」(磐田市の市町別変動率)(2026年8月確認)
- 同上「R7地価調査 資料2 宅地(簡略版)」(磐田市の基準地25地点の価格)(2026年8月確認)
- 法人税法施行令(昭和40年政令第97号)第5条第1項(収益事業の範囲・不動産販売業・不動産貸付業)(2026年8月確認)
- 国税庁「法人税基本通達 第15章第2節 収益事業に係る所得の計算等」15−2−10(収益事業に属する固定資産の処分損益)(2026年8月確認)
- 消費税法(昭和63年法律第108号)別表第二第一号/消費税法施行令第8条(土地の貸付けから除外される場合)(2026年8月確認)
- 地方税法(昭和25年法律第226号)第348条第2項第3号(境内建物及び境内地の固定資産税非課税)(2026年8月確認)
- 磐田市「固定資産税・都市計画税の概要」(税率1.4%・0.3%/2025年12月12日更新)(2026年8月確認)
- 磐田市「固定資産税のはなし」(宅地の評価水準は地価公示価格等の7割を目途)(2026年8月確認)
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号・最終改正 令和6年国土交通省告示第949号)(2026年8月確認)
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価」(静岡県・普通作業員25,834円)(2026年8月確認)
制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と、氏子総代や神社庁の窓口にご確認ください。本記事は一般的な情報であり、特定の神社・家・土地についての判断ではありません。