大石浩之の氏神ノート境内地相続登記磐田市統計

境内地は国庫帰属できない 帰属3,008件と却下の壁

公開 2026-08-24/文:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)

記事内容をもとに生成したイメージ:境内地は国庫帰属できない 帰属3,008件と却下の壁
記事内容をもとに生成したイメージです。実在の場所・人物を撮影したものではありません。

亡くなった父名義の土地が神社の境内でした。国に引き取ってもらえますか

引き取ってもらえません。相続土地国庫帰属法施行令(令和4年政令第316号)第2条第3号が、宗教法人法第3条の境内地を却下要件に定めています。社殿があれば「建物がある土地」としても却下です。審査手数料は一筆14,000円で、却下でも返りません。法務省統計では2026年7月31日現在の帰属3,008件に対し、取下げ1,102件のうち392件は却下・不承認と判明したためでした。

境内地は審査の前で切られる ── 施行令第2条第3号

相続土地国庫帰属制度では、境内地は審査に入る前に却下される。根拠は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」(令和4年政令第316号)第2条第3号で、条文には「境内地(宗教法人法(昭和26年法律第126号)第3条に規定する境内地をいう。)」と書かれている。法務省の案内「引き取ることができない土地の要件」(2026年8月確認)でも、境内地は「他人の利用が予定されている土地」の1類型として却下要件に並んでいる。

却下要件は5つある。建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地、特定有害物質により土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地または所有権に争いがある土地。神社の土地では、このうち複数が同時に成り立つ。社殿が建っていれば1つ目に当たる。境内地であれば3つ目に当たる。境界の杭が抜けたままなら5つ目にも当たる。

宗教法人法第3条が定める境内地の範囲は、社殿の足元だけではない。同条は第2号から第7号までに、次の土地を挙げている。

  • 社殿などの建物・工作物が存する一画の土地
  • 参道として用いられる土地
  • 宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神饌田を含む)
  • 庭園、山林その他尊厳または風致を保持するために用いられる土地
  • 歴史、古記等によって密接な縁故がある土地
  • これらの災害を防止するために用いられる土地

鎮守の森も、幟立ての一角も、この文言のなかにある。

神社の土地がどう積み上がってきたかは、当サイトの基礎資料「朱印地と除地 ── 近世の神社の土地」に例がある。熊野神社(下野部)には、慶長10年(1605)の検地で除地高4斗とされた記録が残る。400年動かなかった土地の名義が、相続で初めて動く。動かしてから出口がないと分かる、という順序になりやすい。

帰属3,008件・却下85件 ── 境内地の却下は統計に1件も出てこない

法務省が公表している「相続土地国庫帰属制度の統計」によれば、令和8年(2026年)7月31日現在で、申請件数は5,863件、国庫に帰属した件数は3,008件である。却下は85件、不承認は96件、取下げは1,102件(いずれも速報値)。申請のうち51.3%が帰属に至っている計算になる。地目別の申請は田・畑2,278件、宅地2,040件、山林893件、その他652件である。

同じ統計には、却下85件の理由別内訳が載っている。境内地は、そこに1件も出てこない。

却下の理由件数
添付書類の提出がなかった37件
境界が明らかでない土地23件
現に通路の用に供されている土地22件
申請権限を有しない者の申請10件
建物の存する土地4件
現に水道用地、用悪水路またはため池の用に供されている土地1件
境内地記載なし(0件)
墓地内の土地記載なし(0件)

ここは読み違えやすい。境内地での却下が0件なのは、境内地なら通るという意味ではない。出す前に止まっている、という意味である。同じ統計の取下げ1,102件の内訳を見ると、「有効活用の見込みが生じた」が571件、「却下・不承認であることが判明した」が392件、その他が139件となっている。相談の段階で分かって引っ込めたものは、却下の統計には現れない。却下85件・不承認96件・取下げのうち判明分392件を足すと573件になり、申請5,863件の9.8%にあたる。

数字は自分の商売感覚に翻訳しておきたい。制度が始まった2023年(令和5年)4月27日から2026年7月31日までは約39か月で、申請5,863件を割ると月におよそ150件、年に直しておよそ1,800件になる。47都道府県で割れば、1都道府県あたり年に38件という規模である。静岡県内の全市町を合わせて年に数十件、磐田市の分はそのごく一部になる。この制度に境内地の道が開くのを待って名義を止めておくのは、私の商売感覚では現実的でない。

手放そうとすると出ていくもの ── 時間・現金・体力の内訳

氏子と総代がすでに出しているものの上に、申請の手間が乗る。乗せる前に、その内訳を数える。

現金。審査手数料は施行令第3条で「承認申請に係る土地の一筆ごとに一万四千円」と定められている。法務省は「手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果却下・不承認となった場合でも、手数料を返還できません」と明記している。境内が一筆で収まっているとはかぎらない。社殿の一画、参道、幟立て、駐車場、鎮守の森が別々の地番なら、5筆で70,000円になる。書類も要る。登記事項証明書は書面請求で1通600円、地図等情報の証明書は1筆500円(いずれも令和7年4月1日からの額)。5筆分をそろえるだけで5,500円である。

時間。法務局の相談は予約制で、平日の日中に出向くことになる。名義人がすでに亡くなっていれば、出生から死亡までの戸籍を集める作業が先に立つ。転籍を重ねた家では、複数の市区町村に請求することになる。総代が本業の合間に進めると、ここだけで数か月かかる。

体力。調べている間も、草は伸びる。可否を法務局に相談している数か月のあいだ、境内の草刈りも注連縄の掛け替えも止まらない。時間と現金は氏子の戸数で割って薄められるが、体力は分担では薄まらない。手続きの話をするとき、ここが一番抜け落ちる。

承認された場合には、さらに負担金が要る。施行令第5条第1項第4号は原則20万円と定め、宅地のうち市街化区域内にあるもの、農地のうち市街化区域内や農用地区域内にあるもの、主に森林として利用されている土地については、地積の区分に応じた算定式を置いている。森林は750平方メートル以下なら地積に59円を乗じて21万円を加えた額で、隣接する2筆以上を1筆とみなして算定する特例も同令第6条にある。ただし、境内地はここまで到達しない。到達しない金額を並べたのは、比べる相手を先に見ておくほうが、次の判断が早く終わるからである。

「境内地に当たるか」は条文だけでは読み切れない

宗教法人法第3条の定義には、読んだだけでは私に判断がつかない部分がある。同条は「境内地」を、宗教法人の目的のために必要な「当該宗教法人に固有の土地」と定義している。「当該宗教法人に固有の」という文言が入っている以上、宗教法人になっていない社――地区で持っている小さな祠、かつての無格社の跡地――の土地が、施行令第2条第3号の境内地に当たるかどうかは、条文の文言だけでは読み切れない。私はここを断定しない。実際の判断は、申請を受ける法務局が現況を見て行う。

ただ、仮に境内地に当たらないと読めたとしても、出口はもう1つ塞がっている。社殿があれば、法第2条第3項第1号の「建物がある土地」で却下になる。建物と呼べない祠や鳥居であれば、今度は法第5条第1項第2号の「土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地」として不承認の側で引っかかりうる。法務省の統計では、不承認96件のうち46件がこの「土地管理を阻害する工作物等が存する土地」で、8つの不承認理由のなかで最も多い。祠を残したまま国に渡す道は、実務上ほぼない。

国に渡す道が閉じている以上、残るのは持ち続けるか、貸すか、売るかである。宗教法人が土地を売る場合の手順と期日は「宗教法人の土地売却は公告1か月 神社の境内地を動かす手順」に、宗教法人法第23条の公告から数えて整理した。

では撤去すればいいのか、という話に進みたくなるが、私はそこには進まない。社を残すか畳むかは氏子が決めることで、不動産業者が段取りの都合で勧める話ではない。当サイトが2026年8月時点で登録している磐田市内146社のうち、神職の常駐を確認できたのは3社である。残りは氏子と自治会が日常を担っている。相談できる相手が常駐していない社ほど、この判断が個人の相続人1人に丸ごと乗る。

今日できる確認3つと、総代の側で1つ減らせること

国庫帰属を申請するかどうかにかかわらず、今日のうちに分かることが3つある。順に書く。

1つ目は筆数である。対象の土地が何筆あるかを公図で数える。手数料は一筆14,000円なので、筆数がそのまま金額になる。2つ目は地目と現況の食い違いである。登記簿の地目が「境内地」なのか、宅地・山林・畑のままなのかを見る。地目が宅地でも、現に境内として使われていれば現況で判断される。3つ目は、その社が宗教法人かどうかである。宗教法人法第5条第1項により、宗教法人の所轄庁は主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事とされている。静岡県の担当課に問い合わせれば、法人になっているかどうかは確認できる。

土地を受ける器の違い――宗教法人にするか、自治会を認可地縁団体にして受け皿にするか、個人名義のまま相続登記だけ整えるか――は「認可地縁団体と宗教法人 磐田の氏子と土地の3つの形」で条文と要件を並べて比べた。名義が個人のまま止まっている土地の期限と手順は「境内地が個人名義のまま 相続登記2027年3月期限」に書いた。国に渡す出口が閉じている以上、実際に選べるのはこの3つのどれかになる。

減らせるものを、総代の側から1つ挙げる。国庫帰属の可否を、相続人が代わるたびに一から調べ直すのをやめることである。前の記事で作ることを勧めた土地の一覧表に、欄を2つ足す。「国庫帰属:対象外(施行令第2条第3号・境内地)」と「確認日:2026年8月24日」。この2つがあれば、次の相続人は法務局へ相談に行く前に見当がつく。書くのに5分、更新は制度が変わるまで不要である。

今日、名義をどうするか決める必要はない。売るのか、法人に移すのか、相続登記だけ先に整えるのか、まだ決めなくてよい。ただ、筆数と地目と現況の3つは今日分かる。この3つを持っていけば、司法書士に相談したときの最初の30分を、説明ではなく相談に使える。氏子の一人として、商売の目で見ると、そこが一番効く。

家をたたむ場面で氏神との縁がどうなるかは、研究ノート「氏子と実家 ── 家を離れても氏神との縁は続くのか」にまとめてある。土地の出口が閉じているという話と、家の出口を探しているという話は、同じ根から出ている。家が動くから、名義が置き去りになる。

よくある確認

神社の隣にある山林や畑なら、国庫帰属できますか。

現況で判断されます。宗教法人法第3条第5号は「庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地」を境内地に含めるため、鎮守の森として扱われてきた山林は境内地とされる可能性があります。社と切り離して耕作されてきた畑は別に判断されますが、主に森林として利用されている土地は国による追加整備が必要とされて不承認になることがあります。

審査手数料14,000円は、却下されたら返ってきますか。

返りません。法務省は「手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果却下・不承認となった場合でも、手数料を返還できません」と明記しています。額は施行令第3条で承認申請に係る土地の一筆ごとに14,000円と定められ、境内が5筆に分かれていれば70,000円になります。申請前に法務局へ相談する段階では、この手数料はかかりません。

宗教法人になっていない小さな社の土地でも、却下されますか。

宗教法人法第3条の境内地の定義は「当該宗教法人に固有の土地」とされており、法人がない社の土地が施行令第2条第3号に当たるかは条文だけでは読み切れません。ただし社殿があれば「建物がある土地」で却下、祠や鳥居があれば「土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地」として不承認になりえます。申請前に法務局へ相談してください。

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出典・確認先

制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と、氏子総代や神社庁の窓口にご確認ください。本記事は一般的な情報であり、特定の神社・家・土地についての判断ではありません。

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この記事を書いた人

大石浩之(磐田市/不動産業)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士

磐田市で実家じまい・相続・空き家の相談を受けています。氏神や祭りの担い手の話は、家や土地をどうするかの相談と必ず同じ場に出てきます。その現場で見たこと・聞いたことを、判断できるところとできないところを分けて書いています。

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