大石浩之の氏神ノート氏子総代登記境内地

境内地が個人名義のまま 相続登記2027年3月期限

公開 2026-08-21/文:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)

記事内容をもとに生成したイメージ:境内地が個人名義のまま 相続登記2027年3月期限
記事内容をもとに生成したイメージです。実在の場所・人物を撮影したものではありません。

うちの社の土地、まだ先代の総代さんの名前のままなんですが、放っておいてもいいんでしょうか

放っておけません。相続登記は2024年4月1日から義務で、それより前に相続を知った分は2027年3月31日が期限です。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料があります。まず登記事項証明書を1通取り、名義人と最終登記日を確認してください。相続人が多く間に合わないときは、相続人申告登記で義務だけ先に果たせます。

名義がずれるのは、社殿の下だけではない

神社に関わる土地は、一枚の地番で完結していないことがある。社殿の建つ境内地、祭具庫や屋台小屋の敷地、幟立ての一角、参拝者が停める駐車場。地番が分かれていれば、登記簿も別々に存在する。宗教法人になっている社であれば、本殿の下は法人名義になっていることが多い。ただし、あとから寄進を受けた土地や買い足した土地は、寄進者や当時の総代の個人名義のまま残ることがある。

ここは事実と私の見立てを分けて書く。事実として言えるのは、神社の土地の由来が近世からの積み重ねだということである。当サイトの基礎資料「朱印地と除地 ── 近世の神社の土地」に例がある。貴船神社(掛塚)は慶安元年(1648)に徳川家光から朱印地8石を寄せられた。熊野神社(下野部)には、慶長10年(1605)の検地で除地高4斗とされた記録がある。土地に支えられて社が続いてきたという構造は、磐田でも文書で確認できる。

その上で、私の見立てを書く。近代以降に地域が買い足したり寄進を受けたりした土地こそ、名義が動かないまま残りやすい。不動産の名義は、売る・担保に入れる・分けるという場面が来ないと動かない。神社の土地はそのどれも起きない。だから何十年も止まる。私は不動産業の側からそう考えている。

当サイトは2026年8月時点で磐田市内の146社を登録している。このうち神職の常駐を確認できたのは、矢奈比賣神社(見付)、府八幡宮(中泉)、貴船神社(掛塚)の3社である。残りの多くは氏子と自治会が日常を担っている。社務所に事務を担う人が常駐していない社では、登記簿を誰が保管しているのかという情報自体が、代替わりのたびに細くなる。

2027年3月31日 ── 相続登記の申請義務化で変わったこと

相続登記の申請は、2024年(令和6年)4月1日から法律上の義務になった。法務省の案内「相続登記の申請が義務化されました」によれば、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要がある。義務に違反した場合、正当な理由がなければ10万円以下の過料が科される可能性がある。過料の額は裁判所が10万円以下の範囲で決める。

総代の立場で効いてくるのは、施行日より前の相続にも義務がさかのぼる点である。法務省はこう明記している。「令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、相続登記がされていないものについては、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります」。令和9年3月31日は2027年3月31日である。先代総代が亡くなったのが1990年代でも、2010年代でも、期限は同じ日に揃う。

期限までの残りは、この記事を書いている2026年8月21日から数えて約7か月半である。相続人が2人か3人なら、その期間で足りることもある。相続が二代・三代にわたって重なり、相続人が10人を超えているなら、まず足りない。私はそこを分けて考えるべきだと思っている。

遺産分割がまとまった場合の期限も別に立つ。法務省は「遺産分割によって不動産を取得した場合も、別途、遺産分割から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記をする必要があります」としている。話し合いが2027年3月31日を過ぎてまとまったとしても、そこからさらに3年の期限が始まる。期限が一度きりではない点は、最初に押さえておきたい。

すでに払っている負担を、時間・現金・体力で数える

名義の話に入る前に、氏子と総代がすでに何を出しているかを数えておきたい。数えずに「登記もやりましょう」と足すのは、現場を知らない足し算になる。当サイトの作法記事「境内の清掃と奉仕 ── 誰が社を保ってきたのか」で整理したとおり、無人の社では氏子が日常の手入れを担っている。

時間。月に一度の清掃を2時間、年12回で24時間。祭りの前後の準備と片づけで2日。総会と役員会に年3回で6時間。ここまでで年間およそ50時間になる。1日8時間の勤務に換算すれば6日分である。

現金。社殿や鳥居の修繕積立、祭りの費用、神職への謝礼。氏子の戸数で割って分担する形が一般的とされる。金額は社ごとに違うので、当サイトは相場を書かない。ただ、戸数が少ない社ほど一戸あたりが重くなるという関係は動かない。

体力。草刈り機を担いでの斜面の草刈り、注連縄の掛け替え、幟の設営。これは年齢が直接効く作業で、70代に入ると同じ量をこなせなくなる。時間と現金は分担で薄められるが、体力は分担では薄まらない。

一戸あたりの重さは、社の規模で大きく変わる。『静岡県磐田郡誌』(大正10年=1921)が氏子戸数を書き残したのは、市内145社のうち53社である。当サイトの研究ノート「氏子と実家」で集計した結果、中央値は150戸だった。最小は八幡神社(向笠西)の6戸、最大は八雲神社(川袋)の1215戸である。同じ「氏子」という言葉のなかに、200倍の開きがある。6戸の社では、上の3つを6軒で割ることになる。

この3つを出している人に、さらに登記の手続きを頼むことになる。だから私は、登記を「追加の仕事」として渡すのではなく、「いま出している負担の一部を将来減らすための投資」として説明したい。名義が個人のままだと、その人の相続人が代替わりするたびに関係者が増える。関係者が増えれば、あとで動かすときの手間と費用も増える。先送りは無料ではない。

今日できる確認 ── 登記事項証明書を1通取る

最初にやることは1つだけでよい。対象の土地の登記事項証明書を1通取り、名義人の氏名と住所、そして最後に登記された日付を見る。法務局の窓口で取得でき、オンライン請求もできる。地番が分からなければ、市の固定資産税の担当窓口や、地図(公図)で当たりをつける。ここまでは総代が1人で動ける範囲である。

名義人が個人で、その人がすでに亡くなっているなら、次は相続人の確認になる。ここで人数が読めない場合に使えるのが相続人申告登記である。法務省の案内によれば、この申出は特定の相続人が単独で行うことができ、申出をした相続人についてのみ相続登記の義務を履行したものとみなされる。遺産分割がまとまらなくても、義務の側だけ先に止められる仕組みである。

相続人の人数を確定させるには、亡くなった名義人の出生から死亡までの戸籍を集める作業が要る。転籍が多い家では、複数の市区町村に請求することになる。ここは総代が本業の合間にやると数か月かかる部分で、司法書士に依頼して費用を氏子で分担したほうが、結果として安く早く終わることがある。時間も原価だと私は考えている。

費用の面では、国税庁の案内「登録免許税の税額表」が示す免税措置が効く場面がある。相続による土地の所有権移転登記のうち、課税標準となる不動産の価額が100万円以下のものは免税とされる。適用は2027年(令和9年)3月31日までに受ける登記である。境内の外れの小さな土地や、幟立ての一角のような評価額の低い土地では、この範囲に収まることがある。

名義を手放す道はどうか、と聞かれることがある。相続土地国庫帰属制度は使えない。施行令(令和4年政令第316号)第2条第3号が境内地を却下要件に挙げているためで、手数料や統計の内訳は「境内地は国庫帰属できない 帰属3,008件と却下の壁」に整理した。国に渡す出口が閉じている前提で、以下の道を考えることになる。

名義を地域の団体に移す道を選ぶ場合、磐田市には「認可地縁団体が所有する不動産に係る登記の特例」の案内がある。市が挙げる要件は4つある。認可地縁団体が不動産を所有していること。10年以上、所有の意思をもって平穏かつ公然と占有していること。登記名義人の全員が構成員または元構成員であること。登記関係者の全部または一部の所在が不明であること。これを満たすと、3か月以上の公告期間を経て、団体が単独で登記申請を行える。根拠は地方自治法第260条の46である。担当は自治市民部 自治デザイン課 地域づくり推進グループ(電話 0538-37-4811)と案内されている。

今の人数で回すために、何を1つ減らせるか

減らすものを1つ挙げるなら、私は「毎年やり直している引き継ぎ」を選ぶ。総代が1年か2年で交代する社では、代が替わるたびに前任者の記憶を頼りに現状を確認し直している。この作業は毎年発生し、しかも毎年ゼロからになる。

提案は単純で、土地の一覧表を1枚作って社の書類に綴じることである。地番、地目、面積、登記上の名義人、名義人の生死、最後に確認した日付。この6項目だけでよい。1度作れば、翌年の総代は登記事項証明書を取り直さずに現状を把握できる。作るのに半日、更新は年10分で済む。

3つの器の違いは「認可地縁団体と宗教法人 磐田の氏子と土地の3つの形」で条文と要件を並べて比べた。ここは私の迷いも書いておく。この先に法人化まで進めるべきかどうか、私は総代に一律には勧めない。宗教法人にするか、自治会を認可地縁団体にして受け皿にするか、個人名義のまま相続登記だけ整えるか。どれが合うかは氏子の戸数と土地の使い方で変わる。名義の現状も分からないうちに器の議論を始めると、決めるべきことが増えて止まる。まず1枚の表を作る。決めるのはその後でよい。

家をたたむ場面と氏神との関わりは「実家をたたむときの作法」に整理してある。氏子という関係が転出や家じまいでどうなるかは、研究ノート「氏子と実家」にまとめた。土地の名義の話は、この2つと同じ根から出ている。家が動くから、名義が置き去りになる。

よくある確認

神社の土地なのに、個人名義でも相続登記の義務がかかりますか。

登記簿上の名義が個人であれば、その土地は法律上その個人の財産として扱われます。名義人が亡くなれば相続の対象になり、相続登記の申請義務がかかります。社の土地として使われている実態があっても、登記の義務は名義で決まります。まず登記事項証明書で現在の名義人を確認してください。

相続人が十数人いて、2027年3月31日までにまとまりそうにありません。

相続人申告登記という仕組みがあります。法務省の案内では、特定の相続人が単独で申し出ることができ、申出をした相続人についてのみ相続登記の義務を履行したものとみなされます。遺産分割がまとまらなくても、義務の側だけ先に止められます。分割後は、その内容に応じた登記が別途3年以内に必要です。

登記の費用は氏子で分担することになりますか。

実際の負担のしかたは社ごとに違うため、当サイトは相場を書きません。制度として言えるのは、相続による土地の所有権移転登記で不動産の価額が100万円以下の場合、2027年3月31日までに受ける登記は登録免許税が免税とされることです。金額の決め方と分担は、氏子総会で確認してください。

あわせて読む

出典・確認先

制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と、氏子総代や神社庁の窓口にご確認ください。本記事は一般的な情報であり、特定の神社・家・土地についての判断ではありません。

大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)の顔写真

この記事を書いた人

大石浩之(磐田市/不動産業)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士

磐田市で実家じまい・相続・空き家の相談を受けています。氏神や祭りの担い手の話は、家や土地をどうするかの相談と必ず同じ場に出てきます。その現場で見たこと・聞いたことを、判断できるところとできないところを分けて書いています。

ATAWI SHRINE について大石浩之のプロフィール