参拝の作法L12026-08-13

実家をたたむときの作法 ── 神棚じまい・氏神への挨拶・家の記録

施設への入所、相続、住み替え。実家をたたむ場面で出てくる神棚やお神札、敷地の祠の扱いと、氏神への挨拶を順に整理します。社務所のある社が限られるという磐田の実際にも触れます。

家をたたむという場面

親が施設に入り、実家に住む人がいなくなった。相続した家を、誰も使わないまま持っている。住み替えを決めて、長く暮らした家を手放すことにした。家をたたむ場面は、いつかは多くの家に訪れます。

家を建てるときには地鎮祭や上棟祭という神事があり、手順は広く知られています。ところが、家をたたむときにどうするかは、まとまって案内されることがほとんどありません。神棚をどうするか。敷地の祠をどうするか。氏神に挨拶へ行くべきか。片づけの段になって初めて考える方が大半でしょう。磐田の集落には、敷地に祠を祀る家や、祭礼で決まった役を担ってきた家があります。家をたたむことは、そうした地域との関わりに区切りをつけることでもあります。

ここでは、家をたたむ・実家を離れるときに関わる神事と作法を順に整理します。あわせて、社務所のある社が限られるという磐田の実際にも触れます。

先に全体を見ておくと、考えることは四つです。神棚とお神札の扱い、敷地の祠や井戸の扱い、氏神への報告、そして家の記録です。いずれも「こうしなければならない」という決まりではなく、「こうする形が案内されることが多い」という水準のものです。慌てる必要はありません。

神棚じまい ── 祓いを受けてから片づける

長く祀ってきた神棚を、家財と同じように廃棄することには、多くの方が抵抗を感じます。実際、神棚を撤去するときは、神職に祓いを依頼してから片づける形が一般に案内されています。神棚祓い、神棚じまいなどと呼ばれます。

崇敬する神社のお神札神宮大麻(伊勢神宮)氏神神社のお神札(向かって左)(中央)(向かって右)
三社造の宮形にお神札を納める順序(一社造の場合は手前から神宮大麻・氏神・崇敬社の順に重ねる)

手順としては、まずお神札を神棚から出して社に納め、そのうえで宮形(お宮の形をした本体)を処分する、という順になります。祓いを受けた宮形は、社でお焚き上げを受けられる場合と、祓いののち自分で処分する場合があります。どちらの扱いになるかは社によって違うため、依頼するときに確かめてください。

神職に依頼せず片づける場合でも、お神札だけは社に納めるのが通例です。宮形は木の設えであり、納められたお神札のほうが本体だ、という考え方です。

解体業者のなかには、見積もりの際に神棚や仏壇の有無を尋ねる業者があります。家財と同じには扱えないという認識が、業者の側にもあるためです。解体まで時間がない場合も、お神札を出して納めることだけは先に済ませておくとよいでしょう。

祓いの謝礼は初穂料として包みます。金額は、依頼する社に直接尋ねて差し支えありません。

仏壇との違い

同じように迷うものに仏壇があります。仏壇は寺の側の営みで、たたむときは閉眼供養(魂抜きとも呼ばれます)を菩提寺に相談するのが通例です。神棚は神社へ、仏壇は寺へと、相談する先が分かれます。両方がある家も多いため、片づけの際はそれぞれに連絡することになります。

お神札と神具の納め先

お神札は、古札納所のある社に納めます。年末年始でなくても、社務所のある社であれば受けてもらえることが多いですが、時期や扱いは社によって違います。

1一年を目安に取り替える年末に納め、正月から新しいお神札にする2古札納所に納める社務所のある社では年末年始に設けられる3どんど焼きに出す自治会単位で行われる地域がある4無人の社では持参先を探す納所がないため、社務所のある社へ持っていく
お神札・お守りの納め方(自宅で処分することは避けるのが通例とされる)

磐田市内で、静岡県神社庁の掲載から授与品や御祈祷の案内を確認できるのは、矢奈比賣神社(見付)、府八幡宮(中泉)、貴船神社(掛塚)の3社です。古札納所が設けられるのも、こうした社務所のある社に限られます。無人の社に納所はありません。拝殿の前に置いていくことは、結果として氏子の方が片づけることになるため避けます。

自治会単位で行われるどんど焼き(左義長)に出す形もあります。ただし、家じまいの時期が正月に合うとは限りません。時期が合わなければ、社務所のある社へ持参するのが確実です。

神宮大麻(伊勢神宮のお神札)や、旅先で受けた社のお神札が神棚から出てくることもあります。受けた社と違う社に納めて差し支えないとされているため、納め先を分ける必要はありません。まとめて納められます。

神鏡や榊立てなどの神具は、お神札とは扱いが違います。祭りの道具ではあるものの、お神札のように神の宿るものとはされないため、清めて処分してよいと案内されるのが一般的です。気になる場合は、祓いを依頼する神職にまとめて相談してください。

片づけの途中でお守りや御朱印帳が出てくることもあります。お守りは社に納めます。御朱印帳は参拝の記録であり、納める決まりはありません。家族の御朱印帳を形見として残す方もいます。

氏神への挨拶 ── 家じまいの奉告

氏神は、住む土地を守る神です。その土地で暮らしてきたことの感謝と、家をたたむという報告を、離れる前に伝えておく。これが家じまいの挨拶参拝で、転居のときの奉告参拝と同じ形です。

氏神(産土神)住む土地を守る神。日々の暮らしを報告する相手とされる崇敬神社個人が特に崇敬する社。土地との関係によらない総氏神伊勢神宮。神棚では中央または手前に神宮大麻を納める
氏神と崇敬神社の区別(神社本庁の説明による。両方に参ってよいとされる)

特別な作法があるわけではありません。ふだんの参拝と同じく二拝二拍手一拝で拝礼し、心のなかで報告すれば足ります。社務所のある社であれば御祈祷として受けてもらえることもありますが、必須ではありません。

実家の氏神がどの社か分からない、ということは珍しくありません。氏神と住所の対応はおおむね大字や集落ごとに定まっているとされますが、文書で公開されているものではなく、地域の慣行です。親や親戚、氏子総代、自治会に尋ねるのが確実です。当サイトの地区別・大字別の一覧も、手がかりになるはずです。

遠方に住んでいて、片づけのために通っている場合は、作業のたびに立ち寄る必要はありません。家を引き渡す前に一度、参拝できれば十分でしょう。本人が行けないときに家族が代わって参る形も、代理参拝として行われています。

なお、家をたたんでも、その社との縁が絶えるわけではありません。氏子ではなくなっても、参拝はいつでもできます。例祭の日に合わせて訪れれば、育った土地の祭りを見ることもできます。挨拶参拝は縁の締めくくりというより、住まいという形での関わりの区切りと考えるのがよいでしょう。

敷地の祠・井戸・樹木

古い家の敷地には、屋敷神の祠が祀られていることがあります。稲荷を祀る例が多いとされ、邸内社とも呼ばれます。

祠を撤去する場合は、神棚と同じく、神職に祓いを依頼してからにします。祀られてきた期間が長いぶん、神棚より慎重に扱われるのが通例で、御霊を遷す祭を行ってから解体する形が案内されます。移転先に祠ごと遷す選択もあります。いずれにしても、まず神職に相談してください。

井戸を埋めるときに、井戸祓いと呼ばれる祓いを行う慣行もあります。長く水を使わせてもらったことへの感謝と報告です。解体業者の側から「お祓いはどうしますか」と尋ねられることもあります。行うかどうかは家の判断ですが、こうした慣行があること自体は知っておくとよいでしょう。

庭の大きな木を伐るときに祓いを行う例もあります。これも決まりではありません。抵抗を感じるなら祓いを頼めばよく、感じないなら省いて差し支えありません。

祠や井戸をそのままにして家を売る場合は、買主との相談になります。祀られてきたものであることを伝えたうえで扱いを決めるほうが、後々の行き違いを避けられます。解体して更地にする場合と違い、引き継いでもらうという選択もあるのです。

これらはいずれも、家と土地に関わる神事です。家を建てるときの地鎮祭と対になる、締めくくりの作法と考えると分かりやすいでしょう。

磐田の実際 ── 相談先が限られるということ

ここまで「神職に相談する」と繰り返し書いてきました。ところが磐田では、その相談先を探すこと自体がひと仕事になります。

常駐が確認できる社 3兼務と確認できる社 3管理形態が未確認の社 139
磐田市内145社の管理形態(当サイトが確認できた範囲。大半は未確認で、実際には無人の社が多いとみられる)

当サイトが把握している市内145社のうち、神職の常駐を確認できたのは数社にすぎません。『静岡県磐田郡誌』(大正10年)を見ても、「代表者」欄に神職名が記された社は市域146件のうち7件で、うち三社は同じ宮司の兼務でした。神職が限られるのは、百年前からの磐田の姿です。

実家の氏神が無人の社である場合、その社に直接依頼することはできません。無人の社の多くはほかの社の神職が兼務しているとみられますが、当サイトが兼務を確認できた社も数社にとどまります。兼務先が分かれば、そちらを通じて祓いを依頼できます。分からなければ、氏子総代か自治会に尋ねるのが早道です。

それも難しければ、社務所のある社に相談する形になります。神棚祓いや井戸祓いのような出張の祓いを受けているかどうかは社によって違うため、電話で確かめてください。

依頼する先が氏神そのものでなくても、差し支えないとされています。祓いは神職が行う神事であって、特定の社でなければ成立しないものではないからです。相談先が見つからないからといって、片づけが止まってしまう必要はありません。

家の記録を残す

最後に、作法とは少し違う話をします。

南部25社豊岡23社竜洋22社豊田19社福田17社御厨17社向陽13社中泉6社見付3社
9地区別の神社数(当サイト登録145社。地区は当サイトの区分による)

家をたたむと、その家が持っていた情報も散逸します。氏神がどの社だったか。祭礼のとき、家がどんな役を担っていたか。敷地の祠に何が祀られていたか。井戸の位置、建て増しの経緯、敷地の境の目印。こうしたことは登記簿にも権利証にも書かれておらず、住んでいた人の記憶にしか残っていません。

当サイトは市内145社の由緒を調べていますが、資料に記録されなかったことは、二世代でほとんど辿れなくなるというのが実感です。神社の由緒でさえそうなのですから、一軒の家の記憶はなおさらです。

片づけの途中で出てくる棟札や祭礼の写真、自治会の名簿は、処分する前に写真に撮っておくだけでも記録になります。売るのか、貸すのか、残すのか。それを考えるのは、家の情報をひととおり整理してからでも遅くありません。むしろ整理してからのほうが、落ち着いて考えられます。

記録は、凝ったものでなくて構いません。家の外観と間取り、神棚と祠、庭。それぞれ数枚の写真と、分かる範囲の来歴を書いたメモがあれば、次の世代には十分な手がかりになります。氏神や祭礼のことで分からない点が出てきたら、当サイトの各社のページも手がかりにしてください。

家をたたむことは、その家で営まれてきた暮らしを締めくくる仕事です。神棚じまいも、氏神への挨拶も、記録を残すことも、その一部です。作法に完璧を期す必要はありません。順に、できる形で進めてください。

出典・参考

関連(姉妹サイト)