大石浩之の氏神ノート氏子自治会会計裁判例磐田市

氏子費と自治会費の違い 一括徴収を退けた2002年判決

公開 2026-08-26/文:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)

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自治会の会計を引き継いだら、区費の中に神社の氏子費が入っていました。このまま集めていいんでしょうか

自治会費と氏子費は、集める根拠も抜け方も別のお金です。佐賀地方裁判所は2002年4月12日、神社関係費を一般会計と区別しないまま区費に混ぜて一括徴収する方法を違法と判断しました(平成11年(ワ)第392号)。争われた氏子費は1戸あたり年150円です。額の大小ではなく、分けていないことが問われました。

自治会費と氏子費は、集める根拠が別のお金である

自治会費(区費)と氏子費は、同じ集金袋に入っていても性質の違う2つのお金である。自治会費は、地域の共同活動のために区域の住民から集める会費である。認可を受けた地縁団体なら、地方自治法第260条の2第2項第1号の「良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動」がその目的にあたる。氏子費は神社の維持のために氏子が負担するお金である。後で見る佐賀地方裁判所の判決文は「氏子費とは,文字どおり,神社の信者(氏子)としての会費のことであり,社格割とは,神社本庁によって神社それぞれに掛けられる賦課金のことをいう」と定義している。

違いは、次の4つの軸で並べると見分けがつく。

比べる軸自治会費(区費)氏子費・社格割
渡る先自治会(認可地縁団体を含む)神社。社格割は神社本庁への賦課金
集める根拠自治会の規約と総会の議決その社の氏子としての負担
誰が構成員か区域に住所を有するすべての個人(地方自治法第260条の2第2項第2号)その社を崇敬する氏子
抜けるとき規約に制限が無ければ一方的な意思表示で退会できる信仰にかかわる事柄で、外から一律には決まらない

4行目の根拠は、最高裁判所第三小法廷の平成17年(2005年)4月26日判決(自治会費等請求事件)である。規約に退会を制限する規定が無い自治会について、会員はいつでも一方的な意思表示で退会できるとした。一方で共益費は、退会の有効・無効にかかわらず支払義務が消滅しないとしている。団体の会員であることに対する会費と、実際に生じた費用の分担は別に扱われている。この判決を空き家に届く請求書の側から読んだのが「空き家の氏子費 静岡県の空き家率16.7%と当番の分母」である。

佐賀地裁2002年4月12日判決 ── 年7,500円の区費に、1戸150円の氏子費

佐賀地方裁判所は2002年(平成14年)4月12日、地域自治会が神社関係費の支出を一般会計と区別しないまま一括して区費を徴収する方法を、その宗教を信仰しない住民に対して違法だと判断した(平成11年(ワ)第392号・地位確認等請求事件)。判決文の冒頭には、この徴収方法が「事実上,宗教上の行為への参加を強制するものであり,信教の自由ないしは信仰の自由を侵害し,憲法20条1項前段,2項,地方自治法260条の2第7項,8項等の趣旨に反し,違法であるとされた事例」と要旨が置かれている。

争われた区の規模と金額は、判決文にそのまま書かれている。佐賀県内のある町区で、2001年(平成13年)当時の全世帯数は約520戸、人口は約1,600人。町内に他の自治会は無く、加入率は98%を超えていた。1995年度(平成7年度)予算の歳入総額は512万1,823円、うち区費は315万円である。区費は1戸あたり月額500円と年額1,500円の2本立てで、合わせて年7,500円だった。

1995年度予算の歳出費目金額裁判所の判断
氏子社格割6万1,500円(氏子1戸150円×390戸+社格割3,000円)宗教関係費にあたる
諸手当のうち「大祭当番班長」3万円宗教関係費にあたる
諸手当のうち「(区費)割方給」2万5,000円あたらない
願成就其他12万8,100円宗教関係費にあたる
仏教婦人会2万円あたらない

裁判所が宗教関係費と認めた3費目を足すと21万9,600円になる。区費を負担する420戸で割ると1戸あたり年523円、月に直すと44円である。年7,500円の区費に対して7.0%にあたる。氏子費そのものに限れば1戸150円、月にすれば12円50銭だ。自動販売機の飲み物1本にも届かない額が、住民が自治会員として扱われない状態を8年以上続かせる入口になった。

言い切っておく。ここで問われたのは金額の大小ではない。分けていないことが問われた。判決は、地域自治会の支出がもともと限られていて費目は数年間ほぼ一定だったことを挙げる。それに対応する形で機械的に区費の額が決まってきた以上、徴収と支出には直接的・具体的な関連性があるとした。その上で、宗教関係費を出し続けながら区費を集めることは、加入と脱退の自由が大きく制限された団体では事実上の強制にあたると認めている。

もうひとつ、意外に読まれていない部分がある。徴収方法は違法とされたのに、慰謝料の請求は棄却された。判決は「長い間,そのような徴収方法を問題とされることなく取り続けてきたのであって,今回,原告らから指摘されるまでは,その徴収方法に内在する問題点に気付くのは困難であった」として、故意も過失も無かったと判断している。会計を引き継いだ人が責められる話ではない、と読める。

名目ではなく中身で線が引かれた ── 「仏教婦人会」は宗教費ではない

この判決で会計の実務に最も効くのは、費目の名前ではなく中身で仕分けされたところである。「仏教婦人会」という費目は、名前に宗教が入っているのに宗教関係費ではないとされた。中身が、住民の葬儀費を軽くするために婦人たちが労力奉仕をすることへの補助だったからである。「(区費)割方給」も、区費の賦課徴収を行う庶務会計担当者への手当であるとして、外された。

逆に「大祭当番班長」という宗教色の無い名前の費目は、宗教関係費と認められた。1990年度(平成2年度)から1994年度までは「宮司(給)」と書かれていた費目で、金額が3万円のまま動いていない。判決文には、同じ3万円が「宮司(給)」「村行事当番班長」「伝統行事当番手当」「村祭当番組手当」「村祭り当番組謝礼」と名を変えていった経過が一覧で載っている。決算書の見出しを書き替えても、金額が動かなければ中身は動いていない。

氏子社格割について、自治会の側は「境内を公園として使っている対価だ」と主張した。裁判所はその側面を認めている。境内が住民の交流と憩いの場になっていたことも、公園使用のために区費を出すことが区の目的の範囲内であることも、正面から認めた。その上で「公園使用等の対価であることと,特定宗教関係費であるということは両立しないわけではない」と述べ、両立すると結論した。境内の清掃や草刈りを住民が担ってきた実際は「境内の清掃と奉仕 ── 誰が社を保ってきたのか」に整理してある。

磐田市300自治会・146社 ── 分ける側がすでに払っている負担

磐田市自治会連合会は、5支部(磐田・福田・竜洋・豊田・豊岡)・29地区・300自治会で構成されている(磐田市「自治会概要・一覧」2025年3月5日更新)。市の世帯数は72,421世帯(2026年7月31日現在)だから、1自治会あたり平均241世帯になる。当サイトが登録している市内の神社は146社で、自治会300に対して社146、単純に割れば自治会2つに社1つの勘定である。1つの自治会と1つの社がきれいに重なる地区ばかりではない、ということでもある。当番が回る周期の数え方は「磐田市72,421世帯 祭り当番が回る周期を数える」に書いた。

佐賀の事例の1戸あたり年523円を、磐田市の平均的な自治会241世帯にそのまま当てはめると、年12万6千円ほどになる。ざっくりした当てはめで、地区ごとの取り決めも社の数も金額も違うから、自分の地区の数字として使えるものではない。それでも、会計を分けるかどうかを話し合うときに机の上へ置く額の桁は、これで見えてくる。

ここで数えておきたいのは、会計を分ける側がすでに払っている負担のほうである。現金の側は、決算書と総会資料の印刷代、通帳と印鑑の管理、監査のための書類の整理。時間の側は、決算書の作成、総会の準備と当日の進行、転入世帯への説明、そして請求が届かない家の追跡。体力の側は、集金の戸別訪問と、境内や公民館の清掃当番である。会計担当と氏子総代を兼ねている地区では、この全部が同じ数人に乗る。この説明の負担を外国人世帯の側から数え直したのが「磐田市の外国人住民6.2% 氏子当番の説明手順」で、市内の外国人世帯5,597世帯を自治会300で割ると1自治会あたり平均19世帯になる。

佐賀の事例では、住民から申し入れがあってから氏子社格割が別会計へ移されるまで約4年かかっている。判決はその遅さを「改善の時期も早いものではない」と指摘した。4年というのは、会計担当が2回か3回入れ替わる長さである。引き継ぎのたびに一から説明し直す時間も、誰かが払っている。

自治会と氏子会の活動を分けて確認する段取りは、磐田市の祭りごみ処分と休日搬入前の確認にも整理した。

今の人数で回すために減らせること ── 集金は増やさず、決算書だけ分ける

減らせることを1つだけ挙げる。会計を分けるときに、集金の回数を増やさないことである。判決が違法としたのは、宗教関係費の支出を一般会計と区別しないまま一括して徴収する方法であって、集金を何回に分けるかではない。決算書と総会の議決を分けたうえで、集金袋は1つのままにし、内訳票に「うち氏子費○○円」と1行入れて、その分を引いて納められる形にしておく。これなら戸別訪問は1回も増えない。ここから先は現場で相談を受けている一事業者としての私の考えで、規約の書き方まで含めた個別の判断は、市の担当課や弁護士に確認してほしい。

判決は、地域自治会について「本来の目的である地域における共同活動に専念すべきであり,神社神道の方式に従った神事を伴う祭りの主催は,被告町区とは明確に区別された氏子集団等の組織によって行われるべきである」と述べている。この事例では氏子名簿が作られておらず、自治会と区別された氏子組織も、独自の会計処理も無かった。名簿と会計の2つが無いと、分けようにも分ける単位がない。名義と器の整理のしかたは「認可地縁団体と宗教法人 磐田の氏子と土地の3つの形」で3つの形に分けて比べた。

ただ、私はここで迷っている。会計を分けた途端に氏子費が集まらなくなる社は出る。任意だと書いた瞬間に納める世帯が半分になれば、修繕も祭りも回らない。かといって混ぜたまま集め続ければ、転入してきた世帯と毎年もめる。どちらがましか、私には決めきれない。信仰の当否を判断する立場でもないし、続けるべきとも、やめるべきとも言うつもりはない。書けるのは、分けた場合に何が起きるかを先に数えておく、という段取りだけだ。

今日、結論を出す必要はない。次の総会までに、決算書の費目を一般費と宗教関係費に色分けして、1戸あたりの年額を出しておく。確かめる順序は3つでいい。①費目名ではなく支出先で仕分ける。②同じ金額が名前を変えて残っていないか3年分並べる。③総会の議決が予算と決算の一括承認になっていないか。それだけで、話し合いの中身が「払うか払わないか」から「いくらをどう分けるか」に変わる。氏子費の集金方法を現金と振込で比べるときの時間・現金・体力の内訳は「氏子費の集金方法を58%から比べる記事」に整理した。氏子と実家の関係を古い記録までさかのぼった整理は「研究ノート:氏子と実家 ── 家を離れても縁は続くのか」にある。

よくある確認

自治会費から氏子費だけを引いて払うことはできますか。

一律には決まりません。佐賀地方裁判所の2002年4月12日判決は、神社関係費を一般会計と区別しないまま一括して区費を徴収する方法を違法としましたが、特定の自治会についての地裁の判断です。まず規約と決算書で氏子費が独立した費目になっているかを確かめ、役員会に控除して納める形を申し入れる順序になります。個別の判断は専門家に確認してください。

この判決は、氏子費を払わなくてよいという意味ですか。

そうは書かれていません。違法とされたのは、神社関係費を一般会計と混ぜたまま区費として一括で集める徴収の方法です。氏子費そのものの当否や、神社の運営を判断したものではありません。判決は住民が自治会の構成員である地位を認めた一方、慰謝料の請求は棄却しています。徴収方法を改める余地を示した判断だと読めます。

会計を分けると、神社の維持費はどうやって集めるのですか。

判決は、神事を伴う祭りの主催は自治会とは明確に区別された氏子集団などの組織が行うべきだと述べています。この事例では氏子名簿も独自の会計も無く、分ける単位そのものがありませんでした。名簿を作り、氏子会の会計を1本立てたうえで、集金は自治会と同じ日に内訳を分けて行う形が現実的です。集まる額は下がる前提で予算を組んでください。

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出典・確認先

制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と、氏子総代や神社庁の窓口にご確認ください。本記事は一般的な情報であり、特定の神社・家・土地についての判断ではありません。

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この記事を書いた人

大石浩之(磐田市/不動産業)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士

磐田市で実家じまい・相続・空き家の相談を受けています。氏神や祭りの担い手の話は、家や土地をどうするかの相談と必ず同じ場に出てきます。その現場で見たこと・聞いたことを、判断できるところとできないところを分けて書いています。

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