参拝の作法L12026-07-29
神棚の祀り方 ── お神札の順序と日々のお参り
家庭の神棚の設け方、神宮大麻と氏神神社のお神札を納める順序、日々のお参りの仕方を説明します。
神棚とは何か
神棚は、家のなかにお神札を祀るための棚です。
神社に参拝して受けたお神札を家に持ち帰り、日々手を合わせる。そのための場所として設けられます。社殿を小さくした形の宮形(みやがた)を置き、そのなかにお神札を納めるのが一般的な形です。
神棚が家庭に広まったのは、江戸時代以降とされます。伊勢参りが盛んになり、御師(おんし)が各地を回って神宮大麻を配ったことが背景にあると説明されます。それ以前から屋内で神を祀る形はありましたが、現在のような宮形を置く様式は比較的新しいものです。
近年は、住宅事情から神棚を設けない家も増えました。棚を吊る場所がない、和室がない、賃貸で壁に穴を開けられない。そうした理由です。簡易な壁掛け型や、棚板だけの形式も市販されています。
設ける場所
神棚を設ける場所について、いくつかの目安があります。
明るく清浄な場所がよいとされます。家族が集まる部屋、あるいは客間に設けることが多いようです。
向きは、南向きまたは東向きが望ましいと案内されます。日の当たる方角という意味です。ただし住宅の構造上そうできないことも多く、絶対の決まりではありません。
目線より高い位置に設けます。見上げる高さです。人が日常的に下をくぐる場所、たとえば出入口の真上は避けるとされます。
二階建ての家の一階に設ける場合、真上の部屋を人が歩くことになります。この場合、天井に「雲」または「天」と書いた紙を貼るという習慣があります。ここから上には何もない、という意味を表すものです。
トイレや水回りに接する壁、仏壇と向かい合う位置は避けるとされます。仏壇と神棚を同じ部屋に置くこと自体は差し支えありませんが、正面から向かい合う配置にすると、一方を拝むときにもう一方に背を向けることになるためです。
お神札の納め方
お神札の並べ方には、二つの形式があります。
宮形が三社造(扉が三つ)の場合、中央に神宮大麻(伊勢神宮のお神札)、向かって右に氏神のお神札、向かって左に崇敬する神社のお神札を納めます。
一社造(扉が一つ)の場合は、手前から神宮大麻、氏神、崇敬社の順に重ねます。手前が上位という考え方です。
神宮大麻を中央または手前に置くのは、伊勢神宮が特別な位置づけにあるためと説明されます。氏神をその次に置くのは、日々の暮らしを守る神だからです。
お神札が増えて納まりきらない場合は、宮形の脇に立てかけるか、別の棚に置きます。無理に重ねる必要はありません。
磐田の実際 ── 氏神のお神札をどこで受けるか
ここからは磐田の事情です。
神棚に納める氏神のお神札は、その社で受けるのが本来の形です。しかし、磐田市内の神社の大半は無人であり、お神札を授与していません。
当サイトが把握している市内145社のうち、神職の常駐が確認できるのは数社にとどまります。静岡県神社庁の掲載で授与品や御祈祷の案内があるのは、矢奈比賣神社(見付)、府八幡宮(中泉)、貴船神社(掛塚)の3社です。
『静岡県磐田郡誌』(大正10年)を見ても、事情は似ています。同書が「代表者」欄に神職名を記す社は、市域146件のうち7件にすぎません。しかもそのうち三社は同じ宮司の兼務です。
無人の社が氏神である場合、お神札は兼務している神職を通じて頒布されることがあります。年末に自治会や氏子総代を通じて配られる地域もあります。実際の入手経路は集落ごとに違うため、まず氏子総代や自治会に尋ねるのが確実でしょう。
それも分からない場合は、市内の社務所のある社で受けることになります。厳密には氏神のお神札ではありませんが、神棚に何も納めないよりはよいという考え方です。
宮形を用意する
宮形は神具店やホームセンターで求められます。一社造・三社造のほか、箱型の簡易なものもあります。材質は白木が一般的で、伊勢神宮の社殿にならった神明造の形が多く見られます。屋根の形が八幡造や流造になっているものもあります。
宮形を置かず、棚板にお神札を立てるだけの形でも差し支えないとされます。宮形の有無が信仰の厚さを表すわけではありません。住宅の広さや予算に応じて選べばよいでしょう。
神具としては、榊立て、水器、皿(米・塩用)、瓶子(へいし/酒用)、灯明が基本です。すべてを揃える必要はなく、榊立てと水器から始める家も多いようです。
祀られている神を知る
氏神のお神札を納めるにあたって、その社が何を祀っているかを知っておくと、手を合わせる意味が変わってきます。
当サイトは、市内145社のうち109社について祭神を確認しました。多いのは、天照大御神、誉田別命(八幡神)、素盞嗚尊、大山祇命、菅原道真といった神々です。
天照大御神を祀る社が多いのは、神明神社が市内各所にあるためです。伊勢信仰の広まりを示しています。神棚の中央に神宮大麻を納めるという形式と、氏神が神明神社であることが重なる家もあるでしょう。
誉田別命は八幡神です。市内には八幡神社・八幡宮が複数あり、府八幡宮(中泉)、若宮八幡宮(森下)などが知られます。武神とされますが、農村では産土神として祀られてきました。
自分の氏神が何を祀っているかは、当サイトの各社ページで確認できます。大字から探せるようにしてあります。
旧社格が判明している18社を見ると、県社が鎌田神明宮と淡海國玉神社の2社、郷社が9社、村社が7社です。鎌田神明宮は天照大御神を祀り、『静岡県磐田郡誌』は沿海の漁夫が祈願成就の際に鎌を奉納する習俗が大正期にも残っていたと記しています。神棚に神宮大麻を納めるという全国共通の形の下に、こうした土地固有の伊勢信仰が重なっています。
日々のお参りとお供え
神棚には、米・塩・水を供えるのが基本とされます。
米は洗米または白米、塩は粗塩、水は毎朝汲みたてのもの。これを三方または白い皿に載せ、神棚に供えます。榊を左右に立て、榊立ての水も替えます。
供える位置は、中央に米、向かって右に塩、左に水とするのが一般的です。三方を用いる場合は、正面が神前を向くように置きます。
毎日行うのが理想とされますが、実際には難しいこともあります。水と榊の水を替えるだけでも構わない、という考え方もあります。月に一度、一日と十五日に整えるという家もあります。
お参りの作法は、神社と同じく二拝二拍手一拝です。朝、供え物を整えたあとに手を合わせます。特別な報告があるときは、そのときに述べればよいでしょう。
お神札の取り替え
お神札は、年に一度取り替えるのが通例とされます。
年末に古いお神札を神社に納め、新しいものを受けて、正月から新しいお神札で年を迎える。この形が一般的です。
古いお神札は、神社の納所(古札納所)に納めます。社務所のある社では、年末年始に納所が設けられます。無人の社では納所がないため、市内の社務所のある社に持参することになります。
正月に行われるどんど焼き(左義長)で焼く地域もあります。磐田市内でも、自治会単位で行われている例があります。日程は地域によって違うため、自治会の案内を確認してください。
お神札を自宅で処分することは避けたほうがよいとされます。ごみとして出すことに抵抗を感じる方が多いのは自然なことです。神社に納めるのが最も確実です。
神棚を設けられないとき
住宅の事情で神棚を設けられない場合もあります。
その場合、棚を吊らずに、家具の上に白い布を敷いてお神札を立てるという形でも差し支えないとされます。目線より高く、清浄な場所であればよい、という考え方です。
お神札を横にして置く、引き出しにしまうといったことは避けます。立てて祀るという形が保てれば、簡易な設えでも問題ありません。
神棚を設けないという選択もあります。神棚がなければ信仰がないということではありません。氏神の社に折々に参るという関わり方もあります。
磐田市内には145社の神社があり、その多くは集落のなかにあります。歩いて行ける距離に氏神がある家も多いでしょう。家のなかに祀る形と、社に足を運ぶ形。どちらを選ぶかは、それぞれの暮らし方によります。
当サイトが各社の祭神・例祭日・所在地を整理しているのは、そうした関わり方の手がかりを残すためです。神棚に手を合わせるにせよ、社に参るにせよ、その神が何であるかを知っていることは、無駄にはならないと考えています。
神棚について書いてきましたが、形式にこだわりすぎる必要はないと考えています。
向きが東でなくてもよい。毎日供えられなくてもよい。宮形がなくてもよい。大切なのは、家のなかに神を迎える場所を定め、折々にそこへ向かうという習慣のほうでしょう。
『静岡県磐田郡誌』が記録する大正期の磐田では、神社が集落ごとに置かれ、氏子戸数が数戸から千戸を超えるものまでありました。八雲神社(川袋)の1215戸のような大きな社もあれば、浅間神社(小島)の8戸、金山神社の5戸という社もあります。数戸の氏子で支えられてきた社は、その家々の神棚と対になって存続してきたはずです。社と家は、切り離されたものではありませんでした。
いま、その関係は薄れつつあります。神棚のない家が増え、社は無人のまま残される。それを嘆くために当サイトが記録しているのではありません。ただ、そこに社があり、誰かが手を合わせてきたという事実を残しておきたいと考えています。
神棚を新しく設けるとき、自分の氏神がどの社かを調べてみてください。当サイトの大字別の一覧から辿れます。その社の祭神と例祭日を知ってからお神札を納めると、同じ棚が少し違って見えるかもしれません。
神棚は、家のなかで最も長く同じ場所にあり続けるものの一つです。引っ越しても持っていき、代が替わっても残る。そのささやかな継続が、社を支える力にもなってきました。
出典・参考
- 神社本庁「お神札のまつり方」ほか公開資料