参拝の作法L12026-07-30
神社参拝の服装 ── 普段着でよい場面と、改めるべき場面
一般の参拝は普段着で差し支えないという前提を示したうえで、社殿に上がる御祈祷や祭礼の役に当たる場合など、服装を改めるべき場面を整理します。
普段着でよい
神社に参拝する際の服装について、まず押さえておきたいことがあります。一般の参拝であれば、普段着で差し支えありません。
神社本庁の案内にも、参拝の服装を定めた規定はありません。散歩の途中に立ち寄る、買い物のついでに寄る。そうした参拝を妨げる決まりはありません。
作業着でも、運動着でも、参拝はできます。畑仕事の帰りに氏神へ寄るという光景は、農村では珍しくないものでした。むしろそれが、氏神との関わりの本来の形に近いでしょう。
服装を気にしすぎて参拝そのものを控えるのは、本末が転倒しています。行きたいと思ったときの服装で行けばよい、というのが当サイトの立場です。
そのうえで、服装を改めるべき場面はあります。以下、場面ごとに整理します。
場面ごとの目安
服装の目安は、その場が何であるかによって変わります。
一般の参拝。普段着でよい。境内を歩くため、歩きやすい靴が実際的です。
社殿に上がる御祈祷。厄祓い、初宮参り、七五三、地鎮祭など、神職に祭祀を執り行ってもらう場合です。襟のある服が望ましいとされます。男性なら襟付きシャツ、女性ならブラウスやワンピース。スーツであれば確実です。露出の多い服装や、サンダル・ビーチサンダルは避けます。
神葬祭・霊祭。喪服です。仏式と同じですが、数珠は用いません。
祭礼の役に当たるとき。地域の取り決めに従います。白足袋、法被、鉢巻といった装束が定められている場合があります。氏子総代や自治会の指示を受けます。
迷った場合は、一段だけ改める。それで足りることが多いようです。
社殿に上がるということ
服装の基準が変わるのは、社殿に上がるかどうかが境目になります。
拝殿の前で参拝する場合、参拝者は屋外にいます。境内は開かれた場であり、そこを訪れる人の服装を制限する理由はありません。
一方、社殿に上がって御祈祷を受ける場合は、神前に近づくことになります。神職が装束を整えて祭祀を行う場に、参列者として加わります。その場に合わせるという意味で、服装を改めることが求められます。
また、実際上の理由もあります。社殿では座ることが多く、正座または椅子になります。足を伸ばしにくい服装、脱ぎにくい靴は不都合です。靴を脱いで上がるため、靴下に穴が空いていないかという点も、案外気になるところです。
神事の所作として玉串奉奠があります。立ち上がって前へ進み、榊の枝を捧げ、拝礼して下がる。この動作をしやすい服装であることも、実際的な条件になります。
磐田の実際 ── 大半が無人の社
ここからは磐田の事情です。
当サイトが把握している市内145社のうち、神職が常駐していることを確認できたのは数社にすぎません。静岡県神社庁の掲載で各種御祈祷の案内があるのは、矢奈比賣神社(見付)、府八幡宮(中泉)、貴船神社(掛塚)の3社にとどまります。
つまり、社殿に上がる機会がある社は市内で3社ほどであり、残る142社では、服装を改める場面がそもそも生じません。
『静岡県磐田郡誌』(大正10年)を見ても、同書が「代表者」欄に神職名を記す社は市域146件のうち7件にすぎず、うち三社は同じ宮司の兼務です。百年前から、神職の常駐する社は限られていました。
無人の社を訪ねる場合、服装で気をつけたいのは体裁ではなく、実際の条件です。参道が未舗装であること、草が伸びていること、社殿の裏がすぐ民家であること。そうした境内に入るための服装が要ります。
無人の社を歩くための服装
市内の無人の社を訪ねるにあたって、実際的な注意をいくつか挙げます。
市内145社は9つの地区に分かれています。南部25社、豊岡23社、竜洋22社、豊田21社、福田17社、御厨17社、向陽11社、中泉6社、見付3社。豊岡は山間、竜洋・福田は沿海の低地、南部・豊田は天竜川沿いの平野です。地区によって歩く条件が違います。
靴。参道が未舗装の社が多くあります。雨のあとは土がぬかるみます。スニーカーか、それ以上に足を守れる靴が無難です。
足元を覆う服。夏場は草が伸び、蚊が多くいます。半ズボンでの参拝は現実的でありません。
冬の風。磐田は遠州灘に近く、冬は「遠州の空っ風」と呼ばれる強い西風が吹きます。境内は樹木に囲まれていることが多いものの、風の抜ける社もあります。防風のきく上着が要ります。
手を洗える用意。無人の社では手水舎に水が張られていないことが少なくありません。ハンカチや携帯用の消毒具があると役立ちます。
当サイトが現地撮影を12月から2月に計画しているのは、こうした事情によります。草が枯れ、虫がおらず、社叢が透けて社殿の全体が見える時期です。
祭礼のときの服装
例祭の日に訪ねる場合は、少し事情が変わります。
当サイトは、市内145社のうち102社について例祭日を確認しました。分布を見ると十月に集中しています。稲刈りを終えた時期に収穫を感謝する祭りを行うという、農村の祭祀の形です。
祭りの日には氏子が集まり、社殿が開かれます。そこへ外から訪ねる場合、氏子として役に当たるわけではないので、装束は要りません。ただし、普段よりは改めたほうが場になじみます。
気をつけたいのは、祭りが氏子の行事であるという点です。見学する立場であることが服装からも伝わるほうが、双方にとって気が楽でしょう。祭りの装束に似た服装で紛れ込むより、はっきり外来者の格好でいるほうが、かえって無用の気遣いをさせません。
氏子として役に当たる場合は、地域の取り決めに従います。集落ごとに違うため、年長者や総代に確認します。
季節と境内の条件
服装を決めるうえで、季節ごとの境内の様子を知っておくと役に立ちます。
当サイトが祭神・例祭日・由緒のいずれかを資料で確認できたのは、市内145社のうち110社です。残る35社は『静岡県磐田郡誌』に記載を見いだせず、現地の由緒板や棟札による確認が必要な状態にあります。つまり、実際に足を運ばなければ分からない社がまだ三割以上あるということです。
春。社叢が新緑になり、境内が明るくなります。歩きやすい季節ですが、雨が続くと参道がぬかるみます。
夏。草が伸び、蚊が多くいます。無人の社では参道が草に覆われていることもあります。長袖・長ズボンと虫除けが要ります。早朝が現実的でしょう。
秋。祭りの季節です。十月に例祭が集中するため、社殿が開き、幟が立ちます。境内が整えられている時期でもあります。
冬。落葉して社叢が透け、社殿の全体が見えます。空気が澄み、虫がいません。遠州の空っ風が強い日は寒さが厳しいものの、境内を歩くには最も適した季節です。
服装は、参拝の作法というより、その日その社を歩くための装備として考えるとよいでしょう。
身を整えるということ
服装の話は、突き詰めれば「身を整える」という考え方に行き着きます。
手水で手と口を清めるのも、身を整える所作です。禊を簡略にしたものと説明されます。『静岡県磐田郡誌』(大正10年)は、矢奈比賣神社(見付)の例大祭に際して氏子が遠州灘の荒波に身を浸して心身を清める「浜垢離」の神事が行われると記しています。府八幡宮(中泉)の例祭でも、一週前の日曜に「前の浜」で浜垢離が行われるとあります。
海に入って身を清めるという形と、手水舎で手を洗うという形と、服装を改めるという形。程度は違いますが、神前に立つ前に身を整えるという考え方は同じです。
その考え方に立てば、何を着るべきかという問いには、場に応じて自分で答えを出せるようになります。細かい規定を覚えるより、そのほうが確かでしょう。
そして、普段着で氏神に寄るという参拝も、その考え方を損なうものではありません。手を清め、頭を下げる。それだけで、身は整います。
服装について長く書きましたが、要点は二つです。一般の参拝は普段着でよい。社殿に上がるときは改める。それだけ押さえておけば、迷う場面はほとんどありません。
残りは、その社を歩くための実際的な装備の話です。磐田市内の社は無人が多く、参道が未舗装で、夏は草が伸びます。訪ねる季節と地区に合わせて、足元と上着を選ぶ。作法の問題ではなく、その社に無事にたどり着くための問題です。
当サイトは市内145社を大字ごとに整理しています。訪ねる前に、その社がどの地区にあり、どういう場所に建っているかを確かめておくと、服装の判断もつきやすくなります。
子どもを連れて行くとき
子どもの服装についても、一般の参拝なら普段着で差し支えありません。
ただし、無人の社では境内が整えられていないことがあります。石段に手すりがない、参道に木の根が張り出している、側溝に蓋がない。そうした場所を歩くことを前提に、足元のしっかりした靴を選んでおくと安心です。
七五三などで社殿に上がる場合は、着物での長時間の参拝が難しいこともあります。着替えを用意しておく、あるいは洋装にするという判断も十分に合理的です。
服装を整えるということは、その場を大事に思っていると示すことでもあります。神に対してだけでなく、同じ場にいる人に対する態度としても働きます。
だからこそ、一般の参拝で普段着が許されるのは、そこが開かれた場だからです。誰でも、いつでも、どんな格好でも入れる。その開かれ方が、氏神という存在の性格を示しています。
磐田市内には145社の神社があり、その大半は無人で、常に開かれています。訪ねる前に服装を思い悩む必要はありません。歩きやすい靴を履いて、行ってみてください。
そして、いちど訪ねてみれば、次に何を着ていくべきかは自分で分かるようになります。その社の参道が舗装されているか、夏に草が伸びるか、風が抜けるか。現地を知ることが、いちばん確かな目安になります。
出典・参考
- 神社本庁ほか公開資料
- 静岡県神社庁 神社紹介ページ
- 『静岡県磐田郡誌』(磐田郡教育会編・1921/国立国会図書館デジタルコレクション pid 965680)